そして誰もいなくなった - 書籍情報- 著者:アガサ・クリスティ
- 翻訳者:清水俊二
- 出版社:早川書房
- 作品刊行日:1939/11/06
- 出版年月日:2003/10/15
- ページ数:367
- ISBN-10:4151300805
BOOK REVIEWS
そして誰もいなくなったを最初に読んだのはもうだいぶ昔の事。犯人も知っているし、トリックも知っている。それなのに何故だろう。もう一度読み始めたら、ページめくりが止まらない。この本はこんなにも面白く、人に勧めたくなる本なのだという事を初めて知りました。
昔書いたレビューがあまりにもお粗末な内容だったので、もう一度この本についてオススメしていきたいと思います。まだまだこの本の魅力を表現できていないと思うけど、クソのような昔の自分のレビューよりは少しはマシになるはずです…
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小説『そして誰もいなくなった』 – アガサ・クリスティ・あらすじ
著者:アガサ・クリスティ
翻訳:清水俊二
出版:早川書房
ページ数:367
孤島のインディアン島に集められた職業も年齢もバラバラの男女10人。どこを探しても招待主の姿が見つからない。やがてレコードから奇妙な声が彼らの共通点を告げる。不気味なインディアンの童謡の歌詞が飾られた部屋。やがてその歌詞通りに一人また一人と殺されていくのだが…
読書エフスキー3世 -そして誰もいなくなった篇-
前回までの読書エフスキーは
あらすじ
書生は困っていた。「ページめくり過ぎて指紋がナッシング!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。読んでいない本のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
そして誰もいなくなった -内容紹介-
大変です!先生!アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』の事を聞かれてしまいました!『そして誰もいなくなった』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
“クローズドサークルと見立て殺人のお手本のような推理小説”デスナ。
…と、言いますと?正直な所『そして誰もいなくなった』は面白い本なのでしょうか?
最近現職から引退したウォーグレイヴ判事は一等喫煙車の隅で葉巻をくゆらせ、《タイムズ》の政治記事を熱心に読みふけっていた。
引用:『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティ著,清水俊二翻訳(早川書房)
コンナ一文カラ始マル“アガサ・クリスティ”ノ1939年の作品デス。読メバワカリマス。
えーっと、それでは困るのです。読もうかどうか迷っているみたいですので。ちょっとだけでも先生なりのご意見を聞かせていただきたいのですが。
読む前にレビューを読むと変な先入観が生マレテシマイマスノデ…
ええい、それは百も承知の上!先生、失礼!(ポチッと)
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
そして誰もいなくなった -解説-
この本はクローズドサークルって何?って人と、推理小説を読んだことないんだけども、見立て殺人って?な人にオススメしたい一冊です。
先生、すいません。それほど推理小説を読んだ事ないし、あんまり人が死ぬ系の話が得意ではないんですが。それでも大丈夫ですか?
そーですねぇ。この小説はすごーく読みやすく、クローズドサークルって言葉の意味を理解するのに最適だと思います。見立て殺人ってこういう事をいうのね!ってのもよくわかるんじゃないでしょうか。つまりはミステリー入門にすごく適した本なのです。
殺人ということはグロテスクな表現もあるのでしょうか?どうにもこうにも心臓がヒャーってなってしまうんですよね。怖い表現とか読むと。
ミステリー入門とは言いましたが、もちろんミステリー通が読んでも面白い作品。この作品は殺人描写がグロくないのに引き込まれる魅力を持っているのです。
クローズドサークルは簡単にいえば外界と連絡も取れず逃げ出せない状況の事です。
あ、金田一少年の事件簿とか名探偵コナンでおなじみの状況ですね。
そうですそうです。吹雪の雪山の小屋とか、無人島みたいな。
なんでいっつもそんな状況やねん!って思いますよね。運が悪すぎるというか、不幸を呼び寄せるハジメちゃんやコナンくん。死神体質…。
『そして誰もいなくなった』の中でもインディアン島という孤島に連れて行かれ、なおかつ嵐になってしまって連絡船が来ないっていうまさにクローズドサークルな状況になってしまいます。
インディアン島…。あ。インディアン島で検索すると『そして誰もいなくなった』が出てきますね。
そう。イギリス、デヴォン州にあるとされている島です。このインディアンという言葉。見立て殺人にも活用されている。
童謡とか昔の詩をなぞって殺人が行われるってやつです。
あー。なんか昔の童謡って意外と不気味なの多いですよね。とうりゃんせとかかごめかごめとか。メロディも歌詞もどっちも怖い。
この小説の中でも最初にインディアンの童謡が紹介されて、そのとおりに殺人が起きていきます。
十人のインディアンの少年が食事に出かけた
一人がのどをつまらせて、九人になった
九人のインディアンの少年がおそくまで起きていた
一人が寝すごして、八人になった
八人のインディアンの少年がデヴォンを旅していた
一人がそこに残って、七人になった
七人のインディアンの少年が薪を割っていた
一人が自分を真っ二つに割って、六人になった
六人のインディアンの少年が蜂の巣をいたずらしていた
蜂が一人を刺して、五人になった
五人のインディアンの少年が法律に夢中になった
一人が大法院に入って、四人になった
四人のインディアンの少年が海に出かけた
一人が燻製のにしんにのまれ、三人になった
三人のインディアンの少年が動物園を歩いていた
大熊が一人を抱きしめ、二人になった
二人のインディアンの少年が日向に座った
一人が陽に焼かれて、一人になった
一人のインディアンの少年が後に残された
彼が首をくくり、後には誰もいなくなった
引用:「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティ著,清水俊二翻訳(早川書房)
これはですね、“テン・リトル・インディアンズ”っていうマザー・グースのひとつなんです。
マザー・グースってあれですよね。きらきら星とかスカボロー・フェアとかハンプティ・ダンプティとか、なーんとな〜くどこかで聴いた事あるよーな童謡は大抵マザー・グースのやつっていう。
日本でも馴染みなモノが多いですね。このインディアンの詩もですね、10人のインディアンって名前で知っている人は知っている童謡です。
こういう昔からずーっと語り継がれている系のって、実はすごく残酷だったみたいなの多いですよね。
本当は恐ろしいグリム童話みたいな。
このインディアンのやつもインディアンを差別したような歌になっていまして、現在では原曲はあまり歌われなくなりましたが、この作品の中ではあえて原曲の方を用いています。 その雰囲気に合わせて殺人が行われていくのです。
クローズドサークル。見立て殺人。そしてタイトルの『そして誰もいなくなった』。ミステリーとは一般的に探偵役と犯人がいて、最終的には誰かが種明かしをするものですよね。
ですね。その種明かしに一種のカタルシスがあるというか、謎だった部分が明かされてスッキリみたいな。そういうのを求めてミステリーを読む所はあると思います。
ですが、そのためには最後に誰かが生き残っていないといけないのです。種明かしをしてくれる探偵とか犯人が。なのに誰もいなくなってしまう。
生存者ゼロ!?え!?どうなっちゃうんですか!?
登場人物もですね、探偵役の人っぽいのがいません。集められた10人。裁判所の元判事、秘書、元軍人のにーちゃん、信仰心の強いおばあちゃん、元軍人のおじいちゃん、お医者さん、遊び人、お屋敷の執事をやってる夫婦、そんで元警部です。
そう思いますよね。でも違う。この警部はがたいがイイだけのおっちゃんなの。特別頭がキレるわけではないのです。
しかも、この小説の形式はグランドホテル形式です。各それぞれの登場人物の視点のようなものから語られていきます。
もうありとあらゆるものが挑戦的じゃないですか。
10人を10人の視点で描いていくわけですから、なんとなく犯人の思考とかわかって来そうですけどね、読んでいても全然わからないように工夫されています。
みんな平等でみんな魅力的なキャラ。キャラ立ちがはっきり書かれています。それが一人ずつ減っていく。そこから生まれてくる人間関係の変化。
おぉぉ…。緊迫感がすごそう。誰を信用していいのやら。疑心暗鬼。
レジャー気分でインディアン島に来て、最初は遊び半分だった人間が徐々に冗談を言ってられなくなっていく。追い詰められる様。読んでいるこっちまで迫ってくるものがあります。
血しぶきブシャー、ノコギリでずたずた!的なグロテスクな表現がなくても、張り詰めた空気感は出せるんですね。うんうん。人が死ぬ話が苦手な僕でも、アガサ・クリスティ読みたくなってきました。
殺人表現はあっさり。残された人間の恐怖感がびっしり。誰も探偵になれず、解決に導いていくものがない恐怖感。どうなるんだ?これどうなるんだ?ってページを捲ってしまう。
ちなみに、私はこの小説を何度か読んでいまして。初回は犯人を知らずに読んで、それ以降は犯人を知った上で読む。しかし、ネタバレを知ってもなお面白い。本当にうまーくぼやかしてるなぁと感心してしまう。
犯人やトリックがわかっているのに面白いミステリーって地の文が面白いんでしょうかね。
ぼやかしているって言うとね、「犯人がわからないってどうなの?ヒントみたいなのがないのって推理小説としてそもそもダメなんじゃないの?」っていう意見もありそうじゃないですか。
あー言われてみれば確かにそうですね。ミステリーは読者と作者の勝負みたいな所ありますからね。作者はある程度情報を渡さねばならないという暗黙のルール的な。
でもですね、たとえばこれがミステリーじゃなかったとして、ヒントとか推理、はたまた犯人が誰とかトリックがなんだみたいなミステリーに必須な要素みたいなのが全くなくても先を読みたくなるぐらいの魅力がこの小説にはあるのですよ。
ほー。そうなるとやっぱり地の文がいいのでしょうね。人間の心理描写ってのが上手なのか、キャラの書き分けが上手なのか。
まぁ、ひとつだけ欠点的なものをあげると、この翻訳のせいかわからないですが、「Sの発言Sの発言Sの発言Sの発言」Sは言った。って書いてある所と「Nの発言Nの発言Nの発言Nの発言」Sは言った。「Sの発言Sの発言Sの発言」って書いてある事がごっちゃになっている部分があるので、これは誰の発言だ?って迷う所があります。
まぁ、そういう所もあって最近は
新しい翻訳も出ているみたいですし、またもう一度この作品を読んでみようかなって思いましたね。何度でも楽しめるミステリーって本当に素晴らしいですよ。
そーですね…。私は一番レビュー数が多かった清水俊二翻訳のものを読みましたが、旧訳の方がいいって言っている人もいますし、それはやっぱり人それぞれでしょう。
自分好みの翻訳を見つけるのも海外小説の楽しみ方のひとつですよね。お金かかりますけど…。
私は気に入った作品は翻訳者を変えて何回も読み直すのが好きです。洋書で読めたらいいのですが、チャレンジした結果、その時間があったら翻訳者を変えた方が何倍も楽しめると思って今はそうしてます。
あれ?先生は翻訳機能付いていないんですか?ってか、読書エフスキーという名前からロシア語とか外国語得意なのかと思っていましたが。
(ロボットや ロシアの事は タブーかな:書生心の俳句)
とりあえず騙されたと思って一冊手に入れて、時間が空いた時にでも読み始めてみてください。時間を忘れられると思いますよ。
よーし!頑張って読んで、ページめくりで指紋を消しちゃいますよ!
批評を終えて
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「ステパンチコヴォ・ネズワーノワ・プロハルチン!」
「見て下さい!ページめくり過ぎて指紋がナッシング!」…って、あれ?僕は一体何を…。
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!なにが「指紋がナッシング」だよ。
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ〜!!
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
…あのすいません、そして誰もいなくなったについて聞きたいんですが。
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!アガサ・クリスティの作品でございますね。おまかせくださいませ!
あとがき
いつもより少しだけ自信を持って『そして誰もいなくなった』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。名言や気に入った表現の引用
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『そして誰もいなくなった』の言葉たちです。善悪は別として。
ちかごろのものは誰でも何でもないことを騒ぎたてる!歯を抜くときに注射を要求する ─ ─眠れないと、薬をのむ ─ ─すぐ、やわらかい椅子やクッションを求め、娘たちはだらしがない恰好をしても平気であるし、夏になると、はだか同様の姿で海岸に横たわっている。
人間は気にしないでいいことを気にするものだ ─ ─妙な目つきで見られると何でもないことを気にすることもあるのだ。
島というものには不思議な力がある ─ ─島という言葉を聞いただけで、幻想的な雰囲気を想像する。世間との交渉がなくなるのだ ─ ─島だけの世界が生まれるのだ。
スカンジナヴィアの神話に出てくる若い武神のように健康と精力がみちあふれていた彼が死んでいる!
世間には、犯人を罪に落とすことができない犯罪がある。
頭のおかしな殺人者というのは会ってみると、案外おとなしい人間なんだ。愉快な奴だったりする
現在までは、被害者がなんら疑念を抱いていなかったから、犯人は容易に目的をとげることができた。これからは、お互いにすべてのものを疑って、絶えず警戒を怠らぬことがわれわれの義務である。警戒にまさる武器はない。
六人、何ごともなかったようにふるまっている六人の人間……。
その言葉は砲弾が炸裂するように彼女の唇から出た。そして、一同を驚かせた。
彼らは互いに相手を敵視し、彼らを結びつけているものは自己防衛の本能だけだった。 そして、五人とも、人間ではなくなっていた。動物にかえってしまったのだった。
たとえどこかに、欠けているところがあるにしても、勇敢なことでは誰にも負けない。危険となら、立派に戦ってみせる。目に見える危険は怖くはない。彼が恐怖を感じるのは、目に見えない危険なのだ。
引用:『そして誰もいなくなった』アガサ・クリスティ著, 清水俊二翻訳(早川書房)
そして誰もいなくなったを読みながら浮かんだ作品
何を当然の事を…と思われる人もいるかも。なにせこの十角館の殺人はそして誰もいなくなったを下敷きに書いた作品だから!…ミステリーに対する知識が浅く他に思いつかなかったので、これで勘弁!
レビューまとめ
ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。
この作品で一番素晴らしいと思う所は主人公が不特定な所。様々な視点から描写されていて、それでいて読者を混乱させることはないわかりやすい文章。それは明確なキャラ付けを各登場人物に持たせていたからだと思います。
とにかく無駄がない。アガサ・クリスティのすごい所はそこなのだなと思いました。流石、世界で一番本を売り上げている小説家です。
見事でした。グイグイと引き込まれていきました。ひとつのミステリーを完結させるにはちょうど良い長さの作品で、非常に読みやすい。一気読みってのを体感した感じ。本をあまり読まないんだよなぁ…っていう人にぜひ。ミステリー読んだことないんだよなっていうあなたもぜひ。
何度読んでもまだ面白い。犯人がわかってもまだ面白い。恐らく何年後かにもう一度読みたくなりそうな気がします。
ではでは、そんな感じで、『そして誰もいなくなった』でした。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます!
最後にこの本の点数は…
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そして誰もいなくなった - 感想・書評
著者:アガサ・クリスティ
翻訳:清水俊二
出版:早川書房
ページ数:367
そして誰もいなくなった
- 読みやすさ - 91%
- 為になる - 72%
- 何度も読みたい - 89%
- 面白さ - 92%
- 心揺さぶる - 74%
84%
読書感想文
本が苦手な人も、ミステリーに触れた事がない人も、とにかく最初にこの本を手に取ってもらいたい。本はこんなにも可能性に満ちている!すごく読みやすく、グロテスクでもない恐怖にゾゾッとしますが、読み終えた後はスッキリとカタルシスが待っている作品です。今、簡単に手に入るのは青木久惠訳の方でKindleでも読めます。
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