エンディミオンというダン・シモンズの小説。これはTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』を観たことがある人ならもしかしたら知っているタイトルかもしれません。
ダン・シモンズのハイペリオンシリーズは全部で4作品ありますが、3作品目である『エンディミオン』こそが長門有希の100冊に選ばれているのです。
まぁ、長門有希の100冊ってなんやねんっていう人もいるかもしれませんが、これは『ザ・スニーカー』という雑誌が2004年12月号に掲載した企画の事。
アニメに登場する長門有希というキャラクターは、読書好きでして、登場する度に常に本を読んでいます。そして感情をほとんど外に出さないので、何を考えているかわからない。
そんな長門有希の本棚を見れば、彼女が普段何を考えているのかわかるのではないのか?という趣旨のもと100冊のおすすめ本を紹介した企画です。
ただ、ちょっと調べてみればわかりますが、ハイペリオンシリーズで唯一大きな賞を受賞していないのがこの『エンディミオン』。
もちろん、賞を受賞したから面白い、受賞していないから面白くないという事は言えないわけですが、いろんなレビューを見てみると、『ハイペリオン』より見劣りするという声が多いのも事実です。
ではなぜ、長門有希は数々の賞を受賞した『ハイペリオン』ではなく『エンディミオン』をおすすめしたのか。
そんな事を思いながら実際にハイペリオンシリーズをすべて読んでみましたが、驚いたことに4作品の中で一番好きだったのが『エンディミオン』でした。
その理由は?
そんな事も含めて『エンディミオン』についてレビューしていきたいと思います。
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小説『エンディミオン』 – ダン・シモンズ・あらすじ
著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:1052(上下巻)
連邦の崩壊から300年ほど経ち、人類はカトリック系の組織、〈平和〉の統べる時代に生きていた。そんな中、惑星ハイペリオンの狩猟ガイド、ロール・エンディミオンは冤罪で処刑される寸前に一人の老人に救われる。その老人はなんとかつての巡礼者の一人、詩人サイリーナス。詩人はロールにまもなく“時間の墓標”から現れる救世主を守ってほしいと依頼してくるのだが…
読書エフスキー3世 -エンディミオン篇-
前回までの読書エフスキーは
あらすじ
書生は困っていた。「味方と敵のどちらにも正義がある設定は胸アツ!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『エンディミオン』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
エンディミオン -内容紹介-
大変です!先生!ダン・シモンズの『エンディミオン』の事を聞かれてしまいました!『エンディミオン』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
“ターミネーター2のような小説”デスナ。
…え!?ターミネーター2って「アイル・ビー・バック」で有名なシュワちゃんの映画ですよね?あのー、ぶっちゃけ『エンディミオン』は面白い本なのでしょうか?
あなたがどんなつもりでこの文章を手にとったにせよ、十中八九、その目的は的はずれだ。
救世主との――ぼくらの救世主との――セックスがどんなものかを知りたいのなら、この先を読んではいけない。それではただの覗き屋だ。
老詩人の『詩篇』の愛読者として、ハイペリオン巡礼たちのその後を知りたいのなら、この文章にはきっと失望をいだく。彼らの大半の身になにが起こったかをぼくは知らない。なんといっても、彼らはぼくが生まれる三世紀も前に生まれ、死んでいった人たちなのだから。
引用:『エンディミオン』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
コンナ一文カラ始マル“ダン・シモンズ”の1996年の作品デス。読メバワカリマス。
あ、前作から300年後の世界なんですね。どうですか?前作よりも面白いんですか?
面白いかドウカは読まないことニハ…
ええい、レビューを読んでから読みたい派なんですよ!先生、失礼!(ポチッと)
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
エンディミオン -解説-
今回は、ハイペリオンシリーズの第三作目『エンディミオン』です
それがですね、1997年のローカス賞の最終候補に選ばれただけで、他は何も取っていないんですよね。
あぁ。やっぱり心配していたことが起きてしまったか。
ん?心配していたことってなんです?
人気を博した作品の続編はスベるってやつですよ。
あー。でも、そうじゃない作品だってあるじゃないですか。
例えばなんです?ほとんどの作品って2は大体スベっているように思えるんですけど。
例えば映画のターミネーターシリーズは『ターミネーター2』が最高傑作って言われているじゃないですか。
あー。なるほど。でもそういうのなんて稀ですよ、マレ。
私が思うに、今回の『エンディミオン』はまさに『ターミネーター2』です。
それ、最初にも言っていましたけど、どういう事なんです?『エンディミオン』は“ターミネーター2のような小説”だって。
『ハイペリオン』と『ハイペリオンの没落』でキーマンになっていたシュライクっているでしょう?
今回は、そのシュライクが主人公たちを守ってくれる方に回るんですよ。
主人公たちを追いかけてくる第二のシュライクのような存在から、守ってくれるんです。
ま、まんま『ターミネーター2』じゃないですか!!
しかも舞台は宇宙ですよ。宇宙を股にかけての逃走劇。面白くないわけがないじゃないですか。
…うーむ。それってどうなんでしょう。ただ規模をでかくすればいいってわけじゃないんじゃないでしょうか。それこそ「制作費かけた映画は面白い」って言ってるような暴論ですよ。
さらには、ハイテク宇宙船 VS 空飛ぶじゅうたん and イカダ!
そうです。どうです?ハイテクな世界観にローテクなSF感!しかも追ってくるのは命をかけたワープでラズベリー・ジャム!
…いまいち言ってることがイメージ出来ません。
ま、細かいことは置いといて、あらすじ説明しちゃいましょう。
そうですね。そうじゃなきゃ話についていけません。
前回の『ハイペリオンの没落』のラストで、マイナ・グラッドストーンの決意によって崩壊した〈連邦〉。
「転移ゲート」というどこでもドアのようなものを破壊した事で惑星間の行き来が出来なくなったんですよね。
相互依存していた惑星たちは、崩壊し、技術力も地に落ちます。
まぁ、たしかに食べ物をどこでもドアで運んでもらっていた惑星は食糧難になって滅んでしまうでしょうね。
そんな時にある宗教団体が台頭してきます。キリスト教のカトリック派です。
たしかこの世界観では、ほとんど力を持っていない宗教でしたよね。科学が進んだ世界では宗教は力を持たないって。
そうです。そんな落ちぶれていたカトリック派でしたが、ある1つの大発見によって世界を統べるようになります。
聖十字架です。『ハイペリオン』で最初に物語を語ったルナール・ホイトを覚えていますか?
物語は〈聖牌〉というカトリックの惑星で生まれ育ち、聖職を授けられたばかりの若い司祭ルナール・ホイトが、惑星外ではじめての仕事を命ぜられるところから幕をあける。彼の役割とは、高名なポール・デュレ神父につきそい、その人知れぬ追放の見張りとして、開拓星ハイペリオンに赴くことだった。
P.50
引用:『ハイペリオン』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
彼の語った物語で、ビクラ族の聖十字架ってあったでしょう。
ええ。ポール・デュレ神父が胸につけられていた十字架ですよね?それによって、死んでも何度でも蘇ってしまうっていう。それでデュレ神父は何度もそれを外そうとして死ぬっていう。
その聖十字架を量産させたのがカトリック派の〈平和〉です。彼らはイエス・キリストの復活になぞらえて、聖十字架で布教をはじめました。
十字架に張り付けられたイエス・キリストが3日後に復活したっていうあれですか?
ええ。日本じゃあまり有名じゃないですが、イースターという復活祭はキリスト教圏内ではクリスマスよりも重要視されていますね。
イースターエッグが有名ですね。昔、それに便乗したチョコエッグのおもちゃ集めにハマって、イースターを知りました。
そのキリストの復活と聖十字架の機能は抜群に相性が良いわけですよ。キリスト教を信じますか?ではあなたにこの聖十字架を差し上げましょう。これで人々は不死を手に入れます。
連邦の崩壊によって世界に絶望していた人々にとって、それは救いの手でした。こうして凋落しはてたキリスト教の一会派だったカトリック派は、聖十字架によって宇宙を統べる〈平和〉という組織になったのです。
なんと…。科学の世界が一変して宗教の世界に。
そのトップは、ご存知ルナール・ホイトです。
え…。300年ぐらい経ってるんじゃないでしたっけ?
彼は胸につけた聖十字架によって、死んでは生まれ変わります。そしてユリウス聖下と名乗ってトップに降臨し続けるのです。
ユリウス十四世聖下は、当然ながら六十代はじめだが、その在位期間は二百五十年間もの長きにわたり、ほぼ途切れることなく、ずっとつづいている。在位が中断するのは、死してのち復活に要する短い期間にかぎられており、これまでに教皇冠授与式がくりかえされることは八回を数えた。最初はユリウス六世として――在位八年だった反教皇テイヤール一世の退位後に――就任したのち、以後は生まれ変わるたびに、七世、八世と代を重ね、いまにいたる。
P.138
引用:『エンディミオン』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
な…なんと。あれ?でもルナール・ホイトって聖十字架によって、ポール・デュレ神父と同体の人物じゃなかったでしたっけ。
そうですね。なので反教皇テイヤール一世を名乗ったポール・デュレ神父の後はずっとルナール・ホイトが教皇を続けるのですが、ルナール・ホイトが死んでポール・デュレ神父に生まれ変わった後は、ポール・デュレ神父は一瞬で殺されてルナール・ホイトとして生まれ変わります。
ポール・デュレ神父はパクスにとって邪魔だったんですね。ほら、聖十字架を否定していた男でしたので。
そんな世界ですが、ポール・デュレ神父のように聖十字架を受け入れない人達もいるのです。今回の主人公はそんな人達の一人、惑星ハイペリオンで狩猟ガイドを務めていた青年、ロール・エンディミオン。
ぼくの人生が永遠に変わってしまい、この物語が真の始まりを迎えたとき、ぼくは二十七歳で、ハイペリオン生まれにしては背が高く、両手の胼胝が厚いことと風変わりなものを好む点を除けば、とくに変わったところのない人間だった。当時のぼくは、トスチャハイ湾に面するポートロマンスから北へ百キロほどの湿原で狩猟ガイドを務めていた。
P.14
引用:『エンディミオン』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
お。出た。小説のタイトルになってる名前だ。27歳か。
彼は狩猟ガイドをしていたのですが、そのお客というのは、パクスに属する金持ち貴族です。その頃の世界はパクスとそうではない人たちに格差が生まれていました。
一族の名前にこの惑星上の都市の名前をいただくのは、先行入植一族に見られる伝統だ。事実、ぼくの一族は生粋の先行入植者で、約七世紀前、最初の播種船で入植した者たちの後裔にあたる。だが、みずからの惑星にありながら、ぼくらはいまや三級市民の窮境にあった。パクス系外世界人たちが一級市民で、ぼくらの祖先が入植してから数世紀後にやってきた〈聖遷〉時入植者たちが二級市民、それにつぐ三級市民がぼくらというわけだ。〈聖遷〉から数世紀来、ぼくの一族はこのあたりの谷や山に住みついて仕事をしてきた。その間ずっと、一族はほぼ確実に、日のあたらない仕事についてきたのだろう――ぼくが八歳のとき若死にした父がそうだったように、その五年後に死んだ母がそうだったように、そして、つい今週までのぼくがそうだったように。
P.76
ひええ…。ネイティブ・アメリカンの辿った歴史を繰り返しているわけですね。先住民はいつも不遇な侵略をされてしまう。
そんな中、ロールには事件が降りかかります。金持ち貴族のミスによって、愛犬が殺されてしまうのです。
逆上したロールはその殺した金持ち貴族ぶん殴りました。その場は一旦収まりましたが、金持ち貴族はその後「この人間のクズの異教徒め…」とロールを殺しにかかるのです。
銃でロールを撃ち殺そうとした瞬間、ロールは男の前腕を叩きつけ、銃口をその男のあごに向けさせました。そしてその男は自分で自分を撃ってしまい死亡。ロールは逮捕されることになります。
主人公の逮捕…。でもそれって、正当防衛になるんですよね?
ところが目撃者の証言はそうではありませんでした。一緒に狩猟に来ていた金持ち貴族たちはデタラメにロールを陥れました。陪審員はおらず、公選弁護人も反対尋問などしませんでした。さらには死んだ男でさえも、そのように証言したのです。
死んだ男…。あ、そうか。パクスの信者は聖十字架をつけているから復活出来るんですね。
そうです。裁判は20分とかからずにおわり、ロールは翌朝の夜明けに死刑を受ける事になります。
死刑を待つロールの元にパクスの神父が改宗を迫ります。
あ!そうやって信者を増やしていくんですね!?やり方が汚いぞ!パクスめ!
しかし、それを断ったロールは死刑を受け入れる事にしました。その死刑を待っている間に首にチクリとなにかを感じたロールは気を失います。
目が覚めるとそこは刑務所ではありませんでした。そこで出会った男が詩人マーティン・サイリーナス。
彼はパウルセン処置と呼ばれる延齢技術で300年後の今も生きていたのです。まぁ、だいぶおじいちゃんになっていましたが。
なぜサイリーナスはロールを死刑から救ったのか。それはブローン・レイミアの娘を救うためです。
ブローン・レイミア。これまた巡礼者のひとりじゃないですか。彼女も生きているんですか?
いえ。巡礼者で生きているのはルナール・ホイトとマーティン・サイリーナスしかいません。この『エンディミオン』は、そのほとんどが新しい登場人物によって構成される物語なのです。
あぁ。そうなんですね。『ハイペリオン』の登場人物たちに愛着を感じていた僕としてはちょっと残念。
「よかろう」老人はいった。「話は二百四十数年前にさかのぼる。ときに〈崩壊〉の真っ最中じゃ。『詩篇』に登場する巡礼のひとりはわが友じゃった。名前をブローン・レイミアという。実在の人物じゃよ。〈崩壊〉ののち……連邦が息絶え、〈時間の墓標〉が開いたのち……ブローン・レイミアは娘を生んだ。娘の名はダイアナといったが、これが強情な子で、ことばをしゃべれる齢になると、自分で勝手に改名してしまいおってな。しばらくはシンシアと名乗っておったが、つぎはケイトと名乗り……ヘケイトを縮めたんじゃ……十一歳になったときは友人にも家族にも、アーテミスの略でテミスと呼ぶように要求した。以上を古代ギリシア風に読めば、ディアーネ、キュンティアー、ヘカテー、アルテミスといずれも月の女神にかかわる名前ばかりじゃ。もっとも、最後に会ったときは、アイネイアーと名乗っておったが」
老人はことばを切り、目をすがめてぼくを見た。
「どうでもいいことと思うかもしらんが、名前というものはだいじだぞ。この都市にちなんだ名前の持ち主でなければ――この都市の名前自体、大むかしの詩にちなんでつけられたものじゃが――わしの注意を引くこともなく、今日ここにこうしていることもなく、おまえさん、いまごろは死んでおったじゃろう。〈中つ海〉で腐食虫の餌になってな。わかるかや、ロール・エンディミオン」
P.48-49
こんな感じでサイリーナスはなぜ“ロール”が死刑から救い出されたのかを語りだすのです。
エンディミオンというのは、サイリーナスが住んでいる都市の名前なのか。
ハイペリオンに最初に建設された都市のひとつで、ジョン・キーツの詩から名前がつけられたわけですね。
でた!実在した詩人、ジョン・キーツ!ハイペリオンシリーズのキーマンですよね。
そうです。そのジョン・キーツは前作『ハイペリオンの没落』の最後でブローン・レイミアに向かってこんな事を語っています。
「汝は魅せられざる静謐の花嫁/汝は沈黙とスロータイムの養い子を宿す……」
キーツはブローンの顔に視線を移した。
「〈後に来る者〉の母たるもの、そのくらいの特権はあってもいい」
――中略――
「彼女がなにを教えるのかはわからないが、その教えは宇宙を変革し、今後一万年にわたって必要不可欠となる、いろいろな考えを実現させる」
P.557
引用:『ハイペリオンの没落 下巻』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
〈後に来る者〉…それがアイネイアーなんですね?
そうです。アイネイアーはパクスの統べる宇宙を変革させる存在なのです。まさかこんな繋がり方をしてくるとは思いませんでしたが、ダン・シモンズもニクイ演出をしますよね。
へー。そこ読んでいるときよくわからなかったけど、まさか次作の伏線になっているとは。
それでまぁ、パクスは何らかの方法で自分たちの時代を終わらせてしまう危険分子だと知って、アイネイアーの命を狙っているわけですね。それから救い出す命を受けたのがロールというわけです。
ロールはサイリーナスの元にいた青い皮膚のアンドロイド、A・べティックを連れて、領事の乗っていた宇宙船に乗り、アイネイアーを迎えに行くのです。
領事の宇宙船。…あれ?待てよ?A・べティックって『ハイペリオン』にも出てきた名前だったような。
よく覚えていますね。巡礼の途中にいたアンドロイドですよ。
それからロール、アイネイアー、A・べティックの旅が始まるのですが、3人は空飛ぶじゅうたんに乗ったり、筏に乗ったりして逃げるわけですね。
…あれれ?全然ターミネーター2じゃないじゃないですか。
その話をする為に『エンディミオン』のもう一人の主人公を紹介しましょう。それはパクスの神父、デ・ソヤです。
ええ。『エンディミオン』はロール視点とデ・ソヤ神父視点で話が進んでいくのです。
へー。パクスの神父って事は追手ってことですか?
そう。パクスの命を受けて、デ・ソヤ神父はアイネイアーを捕まえるべく追いかけるのです。
そうなんですよ。デ・ソヤは不死なのです。そこで、最初に話したラズベリージャムが出てきます。
あ、そんなこと言ってましたね。どういう意味なんですか?
ロール達が乗る領事の宇宙船は別として、連邦崩壊後には多くの技術が失われました。宇宙船などは簡単には作れないのです。アンドロイドも作ってはいけない。
あー、まぁ、『ハイペリオンの没落』のネタバレですけど〈テクノコア〉の過ちをもう起こしてはいけませんものね。AIが進み過ぎちゃうとまさにターミネーターの世界で、機械が人間に牙を向けると。
なので、唯一パクスだけが、宇宙船を作れるような技術を持っているんですが、どこでもドアのようなものは作れないんです。あくまでも人間の技術に頼った宇宙船しか作れないわけなんですね。
つまりワープは出来ませんが、むっちゃすごいスピードで進む宇宙船は作れるんです。
むっちゃすごいスピードで進む宇宙船。それはまぁ、SFの世界じゃなくても可能な感じしますね。
ただ、むっちゃすごいスピードで動くとGがすごいわけです。重力がね。
それでね、あまりにも重力がすごいと、人間はぺしゃんこになりますよね。
だからラズベリージャムなのです。でもドロドロに人間がなってしまっても、パクスの人たちは聖十字架を持っていますから、復活が出来ます。そのおかげでワープにも似たスピードで宇宙空間を移動できるというわけです。
あー、なるほど。ラズベリージャムの意味がわかりました。想像するとかなりシュールですけど、文字通り命がけで追っかけてくるわけですね。
ちなみに、ロールたちは一体どこに向かっているんですか?
ロールはアイネイアーが〈時間の墓標〉から出てくるところを迎えに行きました。それから3人はテテュス川を下っていきます。
まぁ、連邦時代にどこでもドアで繋がれていた川ですね。今ではワープは出来ませんが、ドア自体は残っているんですよ。
へー。でも何のためにテテュス川を下るんです?
アイネイアーいわく、必要な事なんだそうです。
ちなみに、アイネイアーたちはなぜかどこでもドアからワープが出来ます。
だから、パクスは命がけで超高速移動をして追いかけてこなければならないのです。
この辺は作品内でもぼやかして書かれていますが、次作『エンディミオンの覚醒』を読めば理由がわかりますよ。
さっきもそうでしたけど、結構ハイペリオンシリーズって作品間の謎明かしが多いですよね。
なので一部完結型ではなく、とりあえず意味わからないけど、読んでいる最中は面白いから良いかぐらいな勢いで読んでください。なぜかわからないけど逃げてる。とりあえず捕まえようとしている。んで、ピンチになったらシュライクが出てくる。ってな具合に。
シュライクがピンチに…。それ、まるっきり“デウス・エクス・マキナ”じゃないですか。
解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるってやつです。まぁ、その理由も『エンディミオンの覚醒』でわかります。
ふーん。そういうもんなのか。…ところでいつターミネーター2に?
早い段階でロール達とデ・ソヤ神父の追いかけっ子は終わります。まぁ、早い話、デ・ソヤ神父は失敗するんですね。それでパクスから新たな追手が現れます。
その追手が、まさに進化版シュライクなのです。シュライクは言葉を話しませんでしたが、人間の形をし、人間の言葉を使うシュライクのような追手ラダマンス・ネメス。
シュライクは時間を操る殺戮の神でしたが、そのネメスも時間を操れるのです。
…そうなるともうロール達の手に負えないのでは?
そこでシュライクが相手になるんですよ。シュライク vs ネメス。もう胸アツの展開。
へー。って、結構それってネタバレになるんじゃないですか?
今回の『エンディミオン』はぶっちゃけ王道ストーリーでして、あんまり秘密はありません。ネタバレしたから楽しめないってわけじゃなくて、展開を知っていても面白い、展開を知っているからこそ面白いのです。
あ、そっち系のやつですか。ありますよね。展開が想定内なのに面白いのって。「きっと、こうなるんだろう?」「待ってました〜、この展開!」ってやつ。
『エンディミオン』はまさにそれ。3人の冒険譚で王道ストーリー。しつこいほどの追手の怖さにハラハラ・ドキドキなのです。
実際ターミネーター2がそうでしたよね。もう倒しただろう…って安心してると、また復活して追ってきていて、ギャー!…みたいな。
あまり頭は良くないけれど、勇敢なロール。すごい救世主らしいけど、お茶目なヒロインのアイネイアー、アンドロイドなのに一番人間っぽいA・べティック。そしてなんとも憎めない男デ・ソヤ神父。この4人の魅力的な冒険譚をぜひ。
味方と敵のどちらにも正義がある設定は胸アツ!
批評を終えて
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「セミョン・パルフョン・ロゴージン!」
「味方と敵のどちらにも正義がある設定は胸アツ!」…って、あれ?僕は一体何を…。
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!なにが「どちらにも正義がある設定」だよ。ガンダムかよ!
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ〜!!
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
…あのすいません、エンディミオンについて聞きたいんですが。
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!ダン・シモンズの1996年の作品でございますね。おまかせくださいませ!
あとがき
いつもより少しだけ自信を持って『エンディミオン』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。
名言や気に入った表現の引用
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『エンディミオン』の言葉たちです。善悪は別として。
言うべきことが見えないうちは、自分が考えていることもわかるはずはない
P.8
人生では往々にしてそうであるように、なんらかの行為をするにあたって、動機はたいして重要ではない。残るのは行為という事実のみだ。結局のところ重要なのは、ぼくがこれを書き、あなたが読んでいるという動かしがたい事実だけでしかない。
P.11
すべての答えは、待つ者のもとを訪れるもの。
P.44
小さな子供というものは、何百とある惑星のどこであっても、お絵かきで家を描くときは、まず四角を描き、その上に三角を載せ、長四角の煙突から煙が立ち昇る絵を描くという。
P.82
何十億人だろうと、それぞれが好きにやればいい。ぼくにとってだいじなのは、自分の人生です。自分の人生は……自分のものとして送りたい
P.122
世の中、簡単にいくことなどはありえない
P.188
認めるが、このときぼくは愕然とした。その驚きは顔に表れたにちがいない。その朝ポーカーをやっていなかったのは幸いだった。
P.251
「チョコレートを」ぼくはいった。「そうだな。やっぱり、チョコレートにかぎるよ」
P.281
ごぞんじだろうか、旅でひときわ印象に残るのは――どんな長い旅であっても――最初の一週間かそこらだということを。
P.295
きっとうまくいくよ、なにもかも
P.311
偉大なる神のしろしめすこのくそったれの宇宙では、事故や不測の事態を回避することなんぞできんのです。だれにもね
P.321
情報はね、どんなときでも宝物だよ、ロール。人間が宇宙を理解しようとするときには、愛と誠実さのつぎにだいじなのが情報なんだ
P.367
「賭けるったって、持ちあわせなんかないだろう?」
アイネイアーの笑みが大きくなった。
「じゃあ、負けなければいいのよ。そうでしょ?」
P.380
校閲屋どもはいつの世も無能でろくでなしばっかりだ、千四百年のむかしでもそれは変わらん
P.450
「なぜです?」宇宙船はきいた。「下流へくだる目的とはなんの関係ないものを、なぜ調査したりするのです?」
アイネイアーが身を乗りだし、ぼくの手首をつかんで自分の顔に近づけた。
「それはね――人間だからよ」
PP.463-464
ぼくはかぶりをふり、木を伐りに森へ歩みよった。ひとりで黙々と木を伐る作業には、頭を冷やす効果があった。
P.499
あの手のもののヒーローは、スキマー、EMV、ソプター、コプター、固定翼機、宇宙船と、盗んでいくどんな乗り物でも動かしかたを知っている。ぼくにヒーローの基礎訓練が欠けていることはまちがいなかった。
P.48(下巻)
婆さまはよく、オールドアース初期の科学者で、チャールズ・ダーウィンという人物の話をしてくれた。たしか、進化論だか重力理論だかの原型の創始者で、聖十字架という褒賞すらない時代にありながら敬虔なキリスト教徒として育てられたものの、大型種のクモがジガバチによって痺れさせられ、卵を生みつけられ、回復したのちは抱卵を肩代わりさせられたあげく、孵ったハチの幼虫に生きた腹を喰い破られるのを見て、無神論者に転向したという人物だ。
P.130(下巻)
「チーズがあれば、ハムとチーズのサンドイッチを作ることもできたろうさ」デ・ソヤ神父大佐は答えた。「ハムさえあればな」
P.175(下巻)
苦痛と絶望という砂漠のただなかで、冷静さというオアシスを見つけられた裏には、もうひとつの理由があった。ぬくもりだ。
P.243(下巻)
真の暴力的行為がみなそうであるように、それは一瞬のできごとだった。
P.288(下巻)
ぼくは改めて認識した――勇敢であるためには、なにも知らないままでいるのがいちばんだということを。
P.291(下巻)
進化とは、未完の過程ではあるが、ひとつの方向性を持った過程である
P.318(下巻)
ヒトは進化を通じて生まれた。そしてそのヒトこそが、長く苦しみに満ちた過程を経て、人間性を生みだしたんだ
P.321(下巻)
友人、食べもの、会話があるところには、罰も苦痛もない
P.324(下巻)
愛が答えなら、設問はなんだ?
P.336(下巻)
ギリシア人は重力の働きを知っていたけれど、それを四大のひとつが――地が――“身内のもとへ急いでもどるため”と説明したわ。
P.338(下巻)
ふたり以上の人間が共有する秘密は、いつまでも秘密ではいられないことを知っているからだ。
P.399(下巻)
いやになるな。技術が進めば進むほど、なんでもシンプルになるはずなのに。
P.506(下巻)
天才というのはね、ヘマをするものなのよ、ロール。
P.514(下巻)
人生とは残酷だわ。かけがえのない瞬間がささいなことで失われてしまうんだもの。
P.526(下巻)
引用:『エンディミオン』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
エンディミオンを読みながら浮かんだ作品
公開日:1991年07月03日
ジャンル:アクション映画, SF映画
監督:ジェームズ・キャメロン
出演:
やはり、映画『ターミネーター2』ですか。
ある意味、アイル・ビー・バックに似たシーンが『エンディミオン』にもありますからね。
レビューまとめ
ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。
レビュー本編の方で忘れていましたが、『エンディミオン』は一応『ハイペリオン』からは独立して読める物語になってはいますが、やはり『ハイペリオン』と『ハイペリオンの没落』を読んでから読んだ方が良い作品です。
長門有希の100冊に入っているからと、『エンディミオン』から読もうとすると、話についていけなくなります。
まぁ、あんまりそんな読み方をする人はいないとは思うんですけどね、実際に僕は長門有希の100冊に入っている物をレビューしていこうと『ギリシャ棺の謎』の後に『エンディミオン』を手に取ったのですが、意味がわからなくて『ハイペリオン』を読み始めた人間なのです。
そうなると自然と『ハイペリオン』や『ハイペリオンの没落』と比較したくなりますが、2つの作品が枠物語、群像劇と特殊な書き方をしていたのに比べて、『エンディミオン』はまっすぐストレートな書き方をしているので物足らなさを感じるかもしれません。
それほど謎はありませんし、最後のどんでん返しもありません。
だけど、今まで以上に王道冒険感がすごい!
僕のような今まであまりSFに触れてこなかったライトユーザーからすると、非常に読みやすいしわかりやすいドキドキ・ワクワクなSF小説になっています。
そもそも前に敵だったやつが仲間になっていくのって熱くないですか!?
ドラゴンボールのベジータしかり、NARUTOの我愛羅しかり、かつての究極のライバルが仲間になって、更に強大な敵に立ち向かっていく感じ。
『エンディミオン』の魅力はまさにそこです。
主人公ロール・エンディミオンと神父デ・ソヤの2つの視点で描かれていき、ただの追走劇かと思いきや…。
しかも、今回は最強の殺戮の神、シュライクまでも仲間になるのです!
な、なんで!?
って最初は思いましたが、読んでいるうちに「早くシュライク来てくれ!」ってなっていました。
なぜ長門有希の100冊に『ハイペリオン』ではなく『エンディミオン』を選んだのかについては、勝手な推測ですが、ある意味『涼宮ハルヒの憂鬱』では長門有希はシュライクなんですよね。
情報統合思念体(宇宙人)によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースというのが長門有希の正体なので、シュライクの境遇とかぶると思うのです。
困った時の長門有希って展開も、デウス・エクス・マキナのシュライクっぽいですし。
そんなシュライクが味方のように描かれている所に、長門有希は憧れを抱いたんじゃないかと思うのです。
ま、推測の域は出ないんですがね。
SF愛好家だったらちょっと凝った書き方をしている『ハイペリオン』とかの方が好きそうで、読書好きの長門有希もそっちに属すかなと思うんですが、それでもこの『エンディミオン』を推す所に、長門有希の仲間想いの感情を読み取りました。
ではでは、そんな感じで、『エンディミオン』でした。次回は、ついにハイペリオンシリーズの最後。『エンディミオンの覚醒』を扱いたいと思います。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございました!
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最後にこの本の点数は…
エンディミオン - 感想・書評
著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:1052(上下巻)
エンディミオン
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読みやすさ - 98%
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為になる - 65%
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何度も読みたい - 91%
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面白さ - 97%
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心揺さぶる - 92%
89%
読書感想文
すごすぎるSFの世界観なのに、空飛ぶじゅうたんのようなレトロなSFをマッチさせるダン・シモンズの手腕が光る。4作品の中で一番冒険色が強く、ワクワク・ドキドキが止まりません。次々と立ちはだかる困難に3人はどう挑んでいくのか?「逆アイル・ビー・バック!」なラストは、まさに胸熱です!…ま、とりあえず熱いんだ。色んな意味で。
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