ギリシャ棺の謎 - 書籍情報- 著者:エラリー・クイーン
- 翻訳者:中村有希
- 出版社:東京創元社
- 作品刊行日:1932年
- 出版年月日:2014年07月30日
- ページ数:561
- ISBN-10:4488104398
BOOK REVIEWS
ギリシャ棺の謎という推理小説はアメリカの作家、エラリー・クイーンの作品なんですが、実は長いこと本棚にしまったままでした。と言うのも、僕が持っていたのは1959年に発行された井上勇が訳した文庫で、訳うんぬんよりも、印刷してある文字が潰れたスタンプのようで非常に読みにくかったのです。
538ページほどの作品ですが、何度も挑戦しては「フォントが読みにくい!」と挫折し、自分の甘ちゃんぶりを自己嫌悪しておりました。電子書籍などなど、恵まれた環境に甘やかされてしまっている今となっては、どうしても読書に集中する事が出来なかったのです。
しかし、最近、新訳版が出ている事を知りまして、本屋でパラパラとめくって見た所、これがなんとも非常に読みやすい。これは買いだなとレジへ向かい、二宮金次郎のごとく読みながら家へと帰りました。
これはどうやら挑戦謎解き小説というジャンルらしい。作者から読者へ「犯人やトリックがわかるかい?」と挑戦状を叩きつけられているのです。
売られた喧嘩は買わねばならぬ。そう思いながら、どんどん読み進めていったのですが、今度はなんとも主人公が気に入らない。
調べてみるとエラリー・クイーンは非常に読みにくい作家として有名らしく、1959年の解説者、中島河太郎も「クイーンはあいかわらずの引用癖でみんなをいらいらさせる」と書いてあるぐらいなのです。
しかし、これは勝負の世界。作者が読者に「犯人を当ててみろ」と言ってくるのですから、主人公にイライラさせるのも、きっと向こうの戦略。これは意地でも当ててみせるぞ!と意気込んだのですが、ラストの展開に唖然、見事惨敗となりましたとさ。
「これ、犯人わかる人いるの!?」
…という事で、前置きが長くなりましたが、今回はエラリー・クイーンのギリシャ棺の謎をレビューしていきたいと思います。
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小説『ギリシャ棺の謎』 – エラリー・クイーン・あらすじ
著者:エラリー・クイーン
翻訳:中村有希
出版:東京創元社
ページ数:561
盲目の大富豪美術商、ゲオルグ・ハルキスの葬儀が厳粛に行われた直後、屋敷の金庫からハルキスの遺言書が消えてしまった。よくある簡単な盗難事件だと、警察による捜査が行われたが、屋敷中どこを探しても遺言書は見当たらない。そこへ警視の息子であり、大学を出たばかりのエラリー・クイーンが捜査に加わる。遺言書のありかを推理してみせたのだが、そこにあったのは、新たな事件の始まりであった…。
読書エフスキー3世 -ギリシャ棺の謎篇-
前回までの読書エフスキーは
あらすじ
書生は困っていた。「ネクストコナンズヒントを来週まで覚えていられない人間です!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『ギリシャ棺の謎』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
ギリシャ棺の謎 -内容紹介-
大変です!先生!エラリー・クイーンの『ギリシャ棺の謎』の事を聞かれてしまいました!『ギリシャ棺の謎』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
で、伝説!?…と、言いますと?正直な所『ギリシャ棺の謎』は面白い本なのでしょうか?
そもそもの幕開けからハルキス事件は不吉な音色を響かせていたのである。事件は、このあとに起きる出来事と奇妙なハーモニーをなす、ひとりの老人の死で始まった。老人の死はまるで対位法のメロディのように、あとに続く死の行進曲の複雑にからみあう音の糸を編みながら、旋律を奏でていったのだが、無垢の者たちが死を悼んで嘆く歌声はまったくなかった。罪深い交響曲は終わりが近づくにつれて、クレッシェンドで大きくふくらみ、高まり、ついに埋葬の挽歌となって、禍々しい最後の音がかき消えたあとも末永く、ニューヨーク市民の耳という耳の中で余韻を鳴らし続けた。
引用:『ギリシャ棺の謎』エラリー・クイーン著, 中村有希翻訳(東京創元社)
コンナ一文カラ始マル“エラリー・クイーン”ノ1932年の作品デス。読メバワカリマス。
えーっと、それでは困るのです。561ページもあるじゃないですか。なので、読む前にちょっとだけでも先生なりのご意見を聞かせていただけると…。
読む前にレビューを読むと変な先入観が生マレテシマイマスノデ…
ええい、読者は忙しいのです!先生、失礼!(ポチッと)
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
ギリシャ棺の謎 -解説-
今回はエラリー・クイーンの『ギリシャ棺の謎』ですね。
棺…。前回扱ったジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』にも“棺”という言葉が入っていましたよね。
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『三つの棺』の発行年が1935年で、今回の『ギリシャ棺の謎』が1932年ですからね。前回言ったとおり、この時代は吸血鬼ブーム真っ盛りだったんですよ。
じゃあ、今回も土の中から人が這い出て来る的な話ですか?『三つの棺』は読んでみてビックリしましたよ。まさか、土の中から抜け出して脱走するなんて。
いえいえ、今回は吸血鬼にはまったく関係はありません。棺はただただ、葬儀で使われた棺桶ですね。まぁ、その中におかしな物が発見されたから事件が始まるわけですが。
おかしな物?まず最初にあらすじをちょろっと教えてくださると助かります。
では、要望にお答えして。ギリシャ人のゲオルグ・ハルキスは大富豪の美術商として知られていまして、その方が亡くなりました。
いやいや、ハルキスは殺されてはいません。病気で亡くなったのです。
えー、それなら事件は発生しないじゃないですか。推理小説には殺人事件がつきものでしょう。
まずは話を先に進めましょう。先程も言ったとおり、ハルキスは大富豪ですから、死んだ後には遺産が残るわけです。んで、当然ながらそれを遺族に分配するために遺書を書き残しているんですね。
あー、なるほど。その遺産を巡って、人々が殺し合うわけですね!よくあるパターンのやつですね!
いや、だから、話を最後で聞いてもらえますか。あらすじが進まないじゃないですか。
だって、今回の主人公ってこんな感じなんでしょう?話を脱線させるっていうか、引用グセがすごいって。
言われてみれば確かにそんな感じですね。
『三つの棺』はデブかっこいい探偵でしたが、今回はウザかっこいいってわけですか。
残念ながら今回はかっこよくないんですよ。
というのもですね、『ギリシャ棺の謎』というのはエラリー・クイーンの国名シリーズ、第4作品目なんですけど、時系列でいうと1番最初の物語なんですよ。
主人公のエラリー・クイーンが初めて扱った事件であり、エラリー・クイーンがなぜ現在のエラリー・クイーンになったのかを明かした物語なんですね。
んん?主人公の名前はエラリー・クイーンなんですか?エラリー・クイーンって作者の名前じゃないんですか?
あ、エラリー・クイーンというのは、登場人物であり、作者の名前です。
それはつまり、日本で言う所の有栖川有栖って感じで良いんですかね?
有栖川有栖が書いた作品は、探偵ではなく助手役として有栖川有栖が登場しますが、まぁ、言ってみればそうですね。有栖川有栖はエラリー・クイーンから強く影響を受けているらしく、彼の作品も「読者への挑戦」が掲げられていますからね。
へー。それならエラリー・クイーンはペンネームなんですね。
あとはあれですね。エラリー・クイーンは一人ではありません。
ん!?エラリー・クイーンが複数登場するんですか!?まさかのクローン・クイーンってことですか?
いや、そういう意味ではなく、エラリー・クイーンはフレデリック・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーという従兄弟が共同で探偵小説を書く時のペンネームなんですね。
それはつまり、キン肉マンの作者ゆでたまご先生パターンって事ですか?二人に分かれる前の藤子不二雄先生パターンですか!?
プロットを思いつく能力は天才的ながら文章を書くのが苦手なダネイと、文章は上手いがプロットが作れないリーの2人の弱点を補完するためであった。
引用:Wikipedia – エラリー・クイーン
だ、そうですよ。ま、ダネイもリーもこれまたペンネームなんですけどね。
へー。エラリー・クイーンが二人だなんて初めて知りました。
それでですね、そんなエラリー・クイーンが創り出したエラリー・クイーンというキャラクターが、数々の事件を解決していくシリーズがあるのですが、実は今回の『ギリシャ棺の謎は』エラリー・クイーンの失敗談なのですよ。
エラリー・クイーンはハルキス事件において、最後のどたんばまで敗北の屈辱にあえがされ続けた。
P.16
引用:『ギリシャ棺の謎』エラリー・クイーン著, 中村有希翻訳(東京創元社)
実際に読んでみるとですね、エラリー・クイーンは鼻持ちならぬ、プライドが高いやつなんですが、その推理がことごとく外れるんですね。
ドヤ顔で名推理をしたのに、全然当たってないなんて、そりゃーもうお笑いのコントじゃないですか。
だから主人公エラリー・クイーンは、この事件を発表したくなかったらしいんですね。ですが、この事件こそが、エラリー・クイーンをエラリー・クイーンたるものにしたんじゃないか!と太鼓持ちされると、そこまで言うなら発表しても良いよ!となったわけです。
さて、そんなわけで、あらすじに戻りますが、ハルキスの葬儀が終わった後、事件が起きます。ハルキスの顧問弁護士だったマイルズ・ウッドラフが、5分前まで手に持っていて、葬儀前に金庫にしまっておいた遺書がなくなっていることに気がつくのです。
ほほー。あれ?でも顧問弁護士がいるってことは、その遺書に何が書かれていたのかってのは、その弁護士が知っているはずですよね。だったら、遺書その物が消えても、問題ないじゃないですか。
それがですね、なんとも妙な事件でして、ハルキスは亡くなる直前に、遺書を書き換えているんですよ。しかもその内容は絶対に見ないようにとウッドラフに命令さえしているんです。
ふむ。何やら事件の匂いがしてきたぞ。それじゃー、その遺書を盗んだ犯人は、前遺書と新遺書で内容が書き換えられた事で損する人なんじゃないですか?
確かにそうなりますよね。ただ、それは新しい遺書が出てこない事には、わからない。ハルキスとその盗んだ人しか内容を知らないわけですからね。
遺書盗難事件で呼ばれたのが、ペッパー地方検事補とコーヘイラン刑事です。彼らは部屋中くまなく探し回り、関係者の持ち物検査も行いましたが、どこにも遺書は見当たりません。
それはありえません。ウッドラフが遺書がなくなっている事に気がついてから、彼の判断で関係者はすべて外出禁止にしたんですから。
…と、ここで登場してくるのが、大学生のエラリー・クイーンです。彼のお父さんは警視でして、ペッパーとコーヘイランが困り顔で戻ってくると、エラリーは、その事件を推理してみせるわけですね。くまなく探したと言いましたが、まだ見ていない所があるじゃないですか!と。
見ていない所。うーむ。部屋中見たし、持ち物検査もしたんでしょ?
ウッドラフが遺書を手放した5分間、一体みんなは何をしていましたか?
えー。故人を見送って、埋葬して、お祈りして…。あ!棺の中に隠したのか!
と、エラリー・クイーンはドヤ顔で推理したんですね。しかし…
土を掘り起こし、棺を開けてみると、そこにはハルキスとともに、もう一人知らない人間の遺体が入っていたのです!
しかも、遺書はどこにも見当たらない。見事にエラリー・クイーンの推理はハズレてしまったのです。
こうして、事件は単なる遺書盗難事件ではなくなりました。
その後、警察は本格的な捜査を開始するわけですが、事件は難航します。
そりゃー、そうでしょうね…。遺書さえ見つけられないのに、さらに大きな問題が勃発したわけですから。
エラリー・クイーンの父が警視という話はしましたが、警視と言えば、警察ではかなり偉い位なわけです。
確か、警視総監、警視監、警視長、警視正、警視だから、警察組織の中で5番目に偉い人ですよね。
その父が捜査の主導権を握って捜査していくんですが、怪しい人物が多すぎるんです。
葬儀を行った牧師ジョン・ヘンリ・エルダー、家政婦のシムズ夫人、秘書のジョーン・ブレット、画廊の管理人のネーシオ・スイザ、画廊の支配人ギルバート・スローン、ハルキスの妹デルフィーナ・スローン、甥っ子のアラン・チェイニー、いとこのデミトリオス、ハルキスの診察をしていたウォーディス医師、ハルキスの外交員を務めていた夫を持つルーシー・ヴリーランド夫人…
まだまだいますよ。執事のウィークス、教会の墓守のハニウェル、ご近所のいかれたばあさんのスーザン・モース夫人、遺言執行者に任命されていたジェイムズ・J・ノックスなどなど…。みながみな怪しそうに見える。さらには捜査を進めていくにつれて怪しい人はどんどん増えていく。
そんな中、エラリー・クイーンはこれまたドヤ顔で犯人を推理するんですね。
ところがどっこい、その推理は新たな証言により、すぐに破綻してしまいます。
ついには父親の怒りも買ってしまい、エラリー・クイーンは非常に動きにくくなるわけですね。彼はまだ大学生で、ただの犯罪研究をしている人間ですから。
本職の人からしてみれば、遊びじゃないんだぞ!って感じでしょうね。四面楚歌のエラリー・クイーン。
そうして最後までエラリー・クイーンは犯人の仕掛けた罠に騙され続け、この事件をきっかけに「最終的に自分の推理に確信が持てるまでそれを誰にも話さない」というスタイルが確立するという物語なんです。
この小説、挑戦謎解き小説というジャンルでしてね、筆者のエラリー・クイーンが、犯人やトリックがわかるなら、解いてみなさいよという姿勢なんですが、探偵エラリー・クイーンがそんな状態だから、読者も翻弄されるんですよ。
それにしても、ちょっとずるくないっすか?探偵エラリー・クイーンが推理したやつを“新しい証言”によって破綻させるなんて、著者のさじ加減一つじゃないですか。
まぁ、挑戦謎解き小説と言いましたが、あれですよ。挑戦状は最初に叩きつけられるわけじゃなくて、すべての手駒を見せた上で、最後の最後に提示されるので、翻弄されはしますが、正々堂々としてはいましたね。
「ここまでで手の内はすべて明かした。それでは解いてみたまえ」って感じなんですね。すげー自信ですね。
正直、前回扱った『三つの棺』も犯人にビックリしましたが、今回はその3倍ぐらいはビックリしましたね。
3倍…。僕は前回でも相当ビックリしましたけどね。そーかー。3倍かぁ。楽しみだな。誰犯人なんだろ。
ちなみにこの小説はちょっとしたカラクリがありましてね。次の目次を見てみてください。
- TOMB (墓場)
- HUNT (探索)
- ENIGMA (なぞ)
- GOSSIP (噂話)
- REMAINS (遺骸)
- EXHUMATION (発掘)
- EVIDENCE (証拠)
- KILLED? (殺人?)
- CHRONICLES (物語)
- OMEN (予兆)
- FORESIGHT (先見)
- FACT (事実)
- INQUIRIES (調査)
- NOTE (書置)
- MAZE (迷路)
- YEAST (刺激)
- STIGMA (傷痕)
- TESTAMENT (遺言)
- EXPOSÉ (暴露)
- RECKONING (報い)
- YEARBOOK (日記)
- BOTTOM (奈落)
- YARNS (奇談)
- EXHIBIT (提示)
- LEFTOVER (残滓)
- LIGHT (光明)
- EXCHANGE (交換)
- REQUISITION (要求)
- YIELD (収穫)
- QUIZ (出題)
- UPSHOT (終局)
- ELLERYANA (エラリー方式)
- EYE-OPENER (開眼)
- NUCLEUS (核心)
引用:『ギリシャ棺の謎』エラリー・クイーン著, 中村有希翻訳(東京創元社)
そう。各章タイトルの頭文字を読んでいくと「The Greek Coffin Mystery by Ellery Queen(ギリシャ棺の謎 by エラリー・クイーン)」となるのですよ。
へー、おしゃれだなぁ〜。こういう遊びは素敵ですよね。
この『ギリシャ棺の謎は』エラリー・クイーンファンクラブの40名が選ぶクイーンの長編小説人気ランキングで平均点90.50点をつけまして、堂々の一位なんですよね。
あ、そうなんですか。レビューを見ていると、エジプト十字架の謎とかXの悲劇が1番だ!って言っている人もちらほら見えたんですが…。
好みは人それぞれですからね。ちなみに、今、君があげた作品、全部この『ギリシャ棺の謎』が書かれた年に発行された作品なんですよ。
ちなみに、今挙げた4作品すべてが長編小説人気ランキング5位以内に君臨していますからね。
さらには『Xの悲劇』と『Yの悲劇』はエラリー・クイーンではなく、バーナビー・ロスという名義を使って書いているんですよ。
最後に意外な犯人の新しいパターンを成立させる為なのだそうです。
そんなことまで考えつくなんて、恐ろしき1932年。
その当時の人は、エラリー・クイーンとバーナビー・ロスが同一人物なんて知らなかったですからね。
ダネイとリーが仮面をかぶってエラリー・クイーンとバーナビー・ロスとして討論をした事もあるみたいですよ。
まぁ、話が脱線しましたが、『ギリシャ棺の謎』はそんな脂の乗ったエラリー・クイーンが書いた手の混んだ推理小説です。主人公は鼻持ちならないやつでしたが、作者との知恵比べみたいで楽しかったですよ。結果は惨敗でしたが…。
こういうの読んで、作者が示すヒントとかを頼りに犯人当てちゃう人とか尊敬しますね。
僕はネクストコナンズヒントを来週まで覚えていられない人間です!
批評を終えて
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「ナターリヤ・トルソーツキイ・ヴェリチャーニノフ!」
「ネクストコナンズヒントを来週まで覚えていられない人間です!」…って、あれ?僕は一体何を…。
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!元太くんと高木刑事の声が一緒なのはビックリだよな。
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ〜!!
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
…あのすいません、ギリシャ棺の謎について聞きたいんですが。
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!エラリー・クイーンの1932年の作品でございますね。おまかせくださいませ!
あとがき
いつもより少しだけ自信を持って『ギリシャ棺の謎』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。名言や気に入った表現の引用
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『ギリシャ棺の謎』の言葉たちです。善悪は別として。
見ようとしない人間ほど、眼の見えない者はいない……
P.71
「ノックスさんも墓を掘り起こす場に立ち会うんですか?」エラリーが訊いた。「ぼくは一度でいいから、億万長者というものに会ってみたかったんです」
「いや、立ち会わないと言っていたよ。明日は朝早く、ニューヨークを発たなければならないそうだ」
「またひとつ、子供のころからの夢が破れましたよ」エラリーは悲しげに言った。
P.75
「やれやれ、ペッパーさん」エラリーはくすくす笑った。「たぶんあなたはアメリカ人であることで、バートンが『憂鬱の解剖』の中で披露した中国のことわざが分類した、最後のカテゴリーにはいるんですね。“中国人は言う、我々ヨーロッパ人は眼をひとつ持ち、彼ら中国人はふたつ持ち、そのほかの者は眼を持たないと”」
P.135
みなさんが愉快だろうが、不愉快だろうが――こっちは痛くもかゆくもない!
P.165
ぼくの貧弱な脳味噌には、まるで皆さんが材料を買いそろえる前にシチューを作ろうとしているように思えるんですが。
P.173
チョーサーを信じるなら、歳をとるということは、人にとってすばらしい利益ですよ、お父さん。『鳥の議会』を覚えていますか? “人は言えり、古き畑こそ、新たなる穀物が、年ふるごとに実ると”
P.173
運命は残酷だった。運命は、まさに運命らしく、特に目的もないくせに、いっそう残酷になろうと決意しているかのように思われた。どうにも矛盾しているが、涙の雨でたっぷりとうるおされたことで、その土壌はかえって、優しく穏やかな感情の種をまくには適さなくなった。
PP.192-193
うぬぼれ屋が、水車を回す小川のごとき時の流れから、誇りという黄金の富をうまうまとさらいあげるのは、こんな一瞬なのだ。
P.212
今後、ぼくは自分のこのふたつの眼とお粗末な脳しか信じないことにしたんですよ。“内在する意志”がおのずから、目的もなく、無意識のうちに、不滅なる叡智をもって、ぼくに与えてくれるもの以外には
P.288-289
ぼくには前途に横たわるものがはっきり見えませんが、それでも全なる神が、いみじくもラ・フォンテーヌが言った“二重の喜び”をぼくに見せてくださることを祈っていますよ……だます者をだます喜びを
PP.322-323
エラリー・クイーンはいっそうむなしさを覚えていた。信奉する数えきれないほどの古代の叡智のみなもとのひとり、ミュティレネのピッタコス(古代ギリシャ七賢人のひとり)さえも、人の力のちっぽけさに対処するための指針を残してくれていないといまさらながら知ったのだ。時というものは、前髪をつかんで引き留めることができないことを、エラリーはあらためて思い知った。
P.349
まったく、精神医学が人間のありとあらゆる気まぐれな動機を考慮に入れることを覚えるその日までは、犯罪捜査はいつまでたっても子供の遊びだな……
P.382
父親というのは、本当にありがたいものですね。この世でほかにありがたいものはもうひとつしかない。母親というものだ……
P.503
きみは運が悪かったね、ミスター。とても運が悪かった。ナポレオンと同じだよ、すべての戦いに勝ち続けたのに、きみは最後の戦いで負けた
P.513
引用:『ギリシャ棺の謎』エラリー・クイーン著, 中村有希翻訳(東京創元社)
ギリシャ棺の謎を読みながら浮かんだ作品
著者:エラリー・クイーン
翻訳:越前敏弥
出版:角川書店
ページ数:429ページ
おや?エラリー・クイーンの『Yの悲劇』じゃないですか。
悲劇シリーズの2番目の作品ですが、なぜか海外の評価以上に日本で大人気の作品。ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』と同じパターンです。
レビューまとめ
ども。読書エフスキー3世の中の人、朝起きてすぐに腕立て伏せをする事がルーティンワークの野口明人です。
いやー、この作品にはとにかくビックリした。おそらく生涯で一番度肝を抜かれた結末だったんじゃないかな。
…って、そんな事を言うと、自分のミステリー歴が浅いのがバレてしまうわけですが。
よくミステリードラマなどを見ていると、途中で怪しいシーンが描かれて、おや?こいつが犯人かな?みたいな想像をするんですけど、今回に関しては一度も犯人だと疑いをかける事が出来ませんでした。
確かに犯人を知った後に、もう一度読み返してみると犯人たるヒント的なものが読み取れるんですけど、初読の時はとにかく他の事にばかり引っ張られてしまって全然気が付かなかったですね。
もう脱帽。
まず、ギリシャ棺の謎には登場人物がくっそ多いんですよ。
僕はこのブログの記事を書くために、本を読みながら出てきた登場人物の名前とか特徴を全部メモ取っているんですけど、ものすごい分厚さになりました。
警察の部下とかにも一人一人ちゃんと名前がついていて、紹介されるものだから、誰がモブで誰が主要人物かわからないんですよ。
これがもしテレビドラマとかなら、使われている俳優さんなどの知名度とかで犯人の目星もつくんでしょうけど、本という媒体はそういう推測が出来ないですから、作品から読み取れる文字情報だけの純粋な知恵比べでしたね。
それに今回の作品は主人公がいちいち邪魔してくるっていうね。
もっともらしい推理をしてきて、それがことごとく新事実でぶっ壊されていくのだからたまらない。
こういう主人公の使い方もあるんだなぁ〜と新しい発見でした。普通は主人公に読者は自分を重ねたりすると思うんですけど、完全に敵でしたからね。主人公なのに、敵。
ずっとのちにサンプスン地方検事は白状したのだが、もしもジェイムズ・J・ノックスがこの舞台に居合わせていなければ、警視の机に並んでいる電話機を一台つかみあげて、エラリーの頭に投げつけていたところだったそうだ。サンプスンは信じなかった。信じることができなかった。死者が――それもただの死者ではない、生前は盲目だった死者が――殺人犯だと! この世のあらゆる信憑性の法則に反している。いやいや、そんななまやさしい話どころではない――道化師のひとりよがりな駄ぼら、あるいはのぼせた脳髄が生み出したつぎはぎの化け物のごとき誇大妄想、あるいは……ああ、読者諸君。サンプスンはてっきりそう思ったのである。
P.213
まさにこのサンプスン地方検事のごとく、電話機を叩きつけたくなりましたよ。あ、もちろんこれはエラリー・クイーンが間違った推理をした時の出来事なので、ネタバレではありません。
なのに、著者は「てっきり」とか書くでしょ?この推理が実はそれほど間違ってはいない感じで書いてくるんですよ。
こうなってくると探偵エラリー・クイーンも、著者エラリー・クイーンも敵。挑戦状を叩きつけてくる敵です。誰が真実を言っているのかわからない。
そのため、全然犯人がわかりませんでした。561ページの作品ですけど、513ページ頃まで別の犯人を想像しながら読んでいましたからね。
ミスリードが上手なんですよね。最近で言うと日本のTVドラマ『あなたの番です』を観ていた感覚に近いでしょうか。どうでもいいキャラなのに非常に怪しく演出する感じ。
ただ。あな番の方は犯人がわかった時に、あーぁ。なーんだ、やっぱりかーって思いましたが、ギリシャ棺の謎では、犯人がわかった時に「えー!!なんで!?マジで!?おもしれーー!!!(*´ω`*)」ってなりました。
ということで、この作品読みながら犯人を当てられた人は、本当に尊敬します。
もし、あなたがまだ読んだことがなければ、ぜひ挑戦してみてくださいませ。
ではでは、そんな感じで、『ギリシャ棺の謎』でした。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます!
良かったらコメントにおすすめのミステリーを紹介していただけると嬉しいです。
最後にこの本の点数は…
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ギリシャ棺の謎 - 感想・書評
著者:エラリー・クイーン
翻訳:中村有希
出版:東京創元社
ページ数:561
ギリシャ棺の謎
- 読みやすさ - 69%
- 為になる - 72%
- 何度も読みたい - 91%
- 面白さ - 94%
- 心揺さぶる - 88%
83%
読書感想文
400ページで終わりそうな物語を迂回しまくっている印象があるので、あまりテンポは良くありません。人によってはそれを毛嫌いする人もいるかもしれませんね。ただし、それを二転三転する物語として捉えられるのなら、先の想像出来ないスリリングなミステリー小説と言えるでしょう。物語をなぞる読み方よりも、物語を想像しながら読むことでより楽しめる小説です。ぜひエラリー・クイーンの挑戦状に挑んでみてくださいませ。
User Review
68.5%(6 votes)