ハイペリオン - 書籍情報- 著者:ダン・シモンズ
- 翻訳者:酒井昭伸
- 出版社:早川書房
- 作品刊行日:1989年
- 出版年月日:2000年11月30日
- ページ数:920
- ISBN-10:4150113335
BOOK REVIEWS
ハイペリオンというダン・シモンズの小説は、「読んだことがない人が羨ましい」と言われるSF小説です。それはどういう意味かと言いますと、この小説、とにかくワクワクがすごいのです。
次から次へと展開していく内容に、ハラハラ・ドキドキ。これからどうなるんだというワクワク。読み終えた後も、ぜひとも内容をすべて忘れてもう一度読み直したくなるほどの小説なのです。
その実、ハイペリオンはヒューゴー賞・ローカス賞・星雲賞と、SF小説文学賞の数々を受賞しております。
…が、しかし。
調べてみるとすぐにわかることですが、このハイペリオンという作品は4部作でして、『ハイペリオン』『ハイペリオンの没落』『エンディミオン』『エンディミオンの覚醒』とともに上下巻、合計8冊、4442ページもある超長編小説なのです。
4442ページ…。見るだけで、腰が引けますよね。「読んだことがない人が羨ましい程の面白い小説」と言われても、読んでいない人にとって、そのページ数は敷居が高すぎる。
ただ!!
その4部作、出すごとに賞を受賞するというすごいシリーズ作品でして、ページ数に怖気づいて読まないのはもったいない!
大抵の作品は続編でコケる事が多い世の中で、このハイペリオンシリーズの何がすごいって、読み進めれば読み進めるほど、面白さが倍増するのです。
僕自身、『ハイペリオン』を読み終えて、おもしれー!となり、『ハイペリオンの没落』を読み終えて、な、な、な、なんだって!?となり、『エンディミオン』を読み終えて、やばい…超面白いじゃん!となり、『エンディミオンの覚醒』を読み終えて、すべてを忘れてもう一度読みたい!となったのです。
そこで今回は、あなたにもぜひその追体験をしていただきたく、総4000ページ超えのハードルを出来る限り下げるレビューをしていきたいと思います。
それでは、4部作の始まりの物語『ハイペリオン』を扱っていきましょう…。
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小説『ハイペリオン』 – ダン・シモンズ・あらすじ
著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:920ページ(上下巻)
28世紀、宇宙に進出した人類は新たな脅威に面していた。辺境の惑星ハイペリオンに存在する謎の遺跡〈時間の墓標〉が開き始めたというのだ。そこには時を超越する殺戮者シュライクがいる。政府は〈時間の墓標〉の謎を解明すべく7人の男女をハイペリオンへと送り出したのだが、お互いをよく知らない彼らは、その旅の途中で一人ずつ参加するまでの経緯を語っていく事にした…
読書エフスキー3世 -ハイペリオン篇-
前回までの読書エフスキーは
あらすじ
書生は困っていた。「スペクタクルって言っておけば、何でも良いと思っていませんか…」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『ハイペリオン』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
ハイペリオン -内容紹介-
大変です!先生!ダン・シモンズの『ハイペリオン』の事を聞かれてしまいました!『ハイペリオン』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
“ハイペリオンに関する6人の物語”デスナ。
…あれ?短いあらすじでは男女7人が送られたって書いてありませんでしたっけ?正直な所『ハイペリオン』は面白い本なのでしょうか?
漆黒の宇宙船のバルコニーで、年代ものだが手入れのいきとどいたスタインウェイのまえにすわり、連邦の“領事”はラフマニノフの『前奏曲嬰ハ短調』を演奏していた。
バルコニーからは沼沢地が一望のもとに見わたせる。その沼沢地をさかんに哮えたてながら駆けていくのは、緑色の巨竜の群れだ。北のほうからは雷雨の前線が迫りつつある。巨大な裸子植物の森は蒼黒い雲の下に黒々と沈み、荒ぶる天に伸びあがる層積雲は高さ九キロメートルにも達しようか。地平線上のあちこちに閃く電光のさざなみ。船にほどちかいところでは、ときおり巨竜のぼんやりした影が遮蔽フィールドにつっこみ、そのたびにギャーッと悲鳴をあげては、あたふたと藍色の闇のなかへ逃げこんでゆく。
引用:『ハイペリオン』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
コンナ一文カラ始マル“ダン・シモンズ”ノ1989年の作品デス。読メバワカリマス。
なんか、冒頭を読んだだけでは、すごく難しそうなんですけど…。なんすかヘゲモニーだの、遮蔽フィールドだの…。
とにかく読んでから。話はそれからデス…
ええい、レビューを聞いてから、読むかどうか決めるんだい!先生、失礼!(ポチッと)
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
ハイペリオン -解説-
ついに読み終えてしまいました。ハイペリオンシリーズ!
『ハイペリオン』って、アニメ好きな人からするとすごく有名な作品ですよね。
『涼宮ハルヒの憂鬱』というアニメの中の登場人物が作中で読んでいる本の名前が『ハイペリオン』なんですよ。
あー確か、長門有希の100冊にハイペリオンシリーズの『
エンディミオン』が入っていましたね。
そうです。その長門有希が読んでいるのがこの本なんですよ。ちなみにファンの間では『結局、涼宮ハルヒってハイペリオンだから』って言われているぐらいでして、僕も学生時代に気になって『ハイペリオン』買ってしまったんですよ。本屋大賞も取っていましたし。
それで、読んでみてどうでした?結局、涼宮ハルヒはハイペリオンなのですか?
…いやー、それがですね、読んでないんっすよね。本の厚さに圧倒されてしまったというか。
だから今回は、その『ハイペリオン』のレビューをお願いしているんじゃないですか。
仕方がないですね。では『ハイペリオン』のレビューをしていきましょうか。この作品で、まず知っておいてほしいのは、ジョン・キーツという詩人の存在です。
18世紀から19世紀にイギリスに実在した詩人です。
彼は25歳という年齢で若くして亡くなったんですが、『ハイペリオン』という作品を残しているんです。
ただ、この作品は未完でして、それを改稿して出したのが『ハイペリオンの没落』です。これも未完なんですがね。
あれ?『ハイペリオンの没落』ってダン・シモンズも出していますよね?
ええ。それだけでなく、『エンディミオン』、『エンディミオンの覚醒』という作品もジョン・キーツは残しています。
あれ?それって、ダン・シモンズが書いたハイペリオンシリーズのタイトル、そのまんまじゃないですか。
そうです。ダン・シモンズのハイペリオンシリーズは、ジョン・キーツの物語詩を元に書いたSF小説なのです!
詩を元に小説を。うーむ。なんか想像出来ないんですけど。
それと、物語の登場人物にもジョン・キーツは出てきます。
え!?…あれ?28世紀の話なんじゃなかったでしたっけ?
この物語の中のジョン・キーツは、クローン技術とAIを組み合わせて、過去の偉人を再現しようというプロジェクトの元で生まれたサイブリッドという存在として登場するのです。
性格や見た目などはジョン・キーツですが、彼は常に〈コア〉と呼ばれるネットワークと繋がっていて、あらゆるデータベースを参照できる…みたいなSF感です。
そもそも、この作品の世界観ってどういう感じなんですか?
まず、この世界に地球は存在しません。
地球は〈大いなる過ち〉と呼ばれる事故が起こり、消えてしまったのです。地球は今やオールドアースと呼ばれて懐かしまれる存在です。
地球を失った人類は宇宙へ移住し、「テラフォーミング」を行います。
えーっと、確かテラフォーミングって、地球化って意味ですよね?
そうです。火星や月などの惑星を地球化させて、人類が住めるように環境を改変することです。
ただ、それを良しとせず、惑星ではなく、人間の方を改変させ、惑星に適応させる人種も出てきました。それがアウスターです。彼らは宇宙の蛮族と呼ばれています。
お!という事は、人類とアウスターが戦い合う、スター・ウォーズってことですか!?
…と、そうとも言い切れないのがこの物語の面白い所なのです。
人類は宇宙に移住しまして、200にも渡る惑星に住んでいます。そしてその惑星たちは転位網という“どこでもドアのようなもの”で繋がっているのです。
どこでもドア?それはつまり、火星から水星に一瞬で移動したり出来るわけですか?
そうです。そして繋がっている惑星は連邦を形成しています。
まぁ、つまりはすべての惑星がくっついて、アメリカ合衆国のような国を作っているようなもので、200もの惑星 vs アウスターでは、それほど話にならないわけですよ。
象とアリの戦争って事ですね。連邦が大きすぎて、アウスターはのけもの的存在だと。
しかも、連邦にはどこでもドアを作ってしまうような独立自律知性群〈テクノコア〉なるものが顧問官を務めています。
ええ。ものすごーくAIが進歩しまして、未来のことまでもほとんど計算出来てしまうんですね。そんなAIのグループ〈テクノコア〉が今では政治にも関わっている。
未来が予測出来てしまう…。それならアウスターとの戦争にも負けるはずありませんね。
ですが、ここで1つの問題が起こります。
連邦に加盟していない辺境惑星ハイペリオンで〈時間の墓標〉が開かれつつあるというのです。
〈時間の墓標〉には時間を超越する殺戮者シュライクがいると言われています。
時間を自由自在に操るってことか…。なんすかそれ。最強じゃないですか。
そう。時間を超越するシュライクのいる惑星ハイペリオンは、いくら未来が予測できてしまう〈テクノコア〉とて、予測不能なのです。
まさか、アウスターはその力を利用して、連邦をひっくり返そうとしたりしてるんですか?
それに輪をかけて事態を複雑にする要素がある。ハイペリオン星系をめざし、〈放逐者〉の群狼船団が接近しつつあることが判明したのだ。船団規模は、すくなくとも四千隻。そして、わが艦隊が到着してまもなく、その狼船団も現地に到着する
P.12
アウスターの思惑はわかりませんが、アウスターがハイペリオンへ向かっているという情報を手にした連邦は、自らも7名の男女をハイペリオンへ送り込みます。
遠く謎めいた惑星で領事を務めた十一年間のあいだに、外世界から訪れた巡礼団は――秘教シュライク教団の許可を受け、北に連なる〈馬勒山脈〉を越えて風吹きすさぶ曠野に〈時間の墓標〉をめざす巡礼団は――十組以上を数えた。だが、もどってきた者はただのひとりもいない。平常時ですら――時潮や、だれにも理解できない謎の力、さらには抗エントロピー場などにより、シュライクが行動を封じられ、〈時間の墓標〉周辺数十メートルの範囲しか動きまわれなかった平常時ですら――そんなありさまだったのだ。おまけにあのころは、アウスターの侵略などという脅威も存在しなかった。
P.17
でもハイペリオンに巡礼をし行くということは、今となっては命がけなのです。
抗エントロピー場?…文章の言っていることはほとんどわかりませんでしたが、とりあえずアウスターの脅威にビビりながらハイペリオンへ向かうわけですね。
現在、パールヴァティーの森霊修道会が、聖樹船〈イグドラシル〉の出航準備を進めている。救出艦隊には、同船の通貨を許可するよう通知ずみだ。〈イグドラシル〉が出航して量子リープを行うのは、〈ウェブ〉時間で三週間後。それまでにパールヴァティーに赴けば、宇宙船ごと収容してもらえる手はずになっている。シュライク教団の選んだ他の六人の巡礼も、この世樹船に同乗していく。ただし、情報部の報告によれば、七人の巡礼のうちすくなくともひとりは――アウスターのエージェントだという。われわれは……現時点では……そのひとりがだれなのか、さぐりだすすべを持たない
P.14
しかも、どうやら裏切り者が1人混じっているらしいのです。
ここで、その7名の巡礼者たちを紹介しましょう。
領事、ソル・ワイントラウブ(学者)、フィドマーン・カッサード(大佐)、ヘット・マスティーン(船長)、ルナール・ホイト(神父)、マーティン・サイリーナス(詩人)、ブローン・レイミア(探偵)です。
え!?一気に行き過ぎて、全然頭に入ってきません。
大丈夫です。『ハイペリオン』は、枠物語の作品なのです。
えーっと、有名なのは知ってるんですが、どちらも読んだことがなくて…。
みんなで輪になって、1人が1つずつ怖い話をしていって、話し終えたら蝋燭消していく日本のホラーってなかったでしたっけ?あれも枠物語なんですが。
『百物語』ですかね。あー、なるほど。1つの長編のなかに、関わりのある複数の短編が入ってるみたいなやつですね。
この7人はみな惑星ハイペリオンに業のあるものたちで、なぜ巡礼者に選ばれたのかを語っていくんです。それによって、読者も登場人物たちがどんな人達なのかを徐々に知ることが出来るようになります。
ま、つまりは『ハイペリオン』はハイペリオンシリーズの導入部分にふさわしい、人物や設定紹介の巻なんですね。
ちなみに先生、ちょっと気になったんですが、領事の名前はなんですか?彼だけ、役職しか書かれていないんですが。
領事は領事としか書かれていません。とりあえず、この作品に一番最初に出てくる登場人物ですね。
あ、確か冒頭の紹介の時に出てきましたね。ピアノでラフマニノフを弾いて。
『ハイペリオン』は、領事目線で書かれています。
ということは、一応“主人公”って事になるんですかね。
それがね、そうでもないんですよ。
え?普通って、その目線の人の事を言いませんか?
実はね、これは『ハイペリオンの没落』でわかる事ですが、ジョン・キーツが彼の思考を覗き込んでいる事になっています。
えー!?覗き込んでいる!?サイブリッドはそんなことまで出来てしまうんですか?
しかもこれは『エンディミオン』でわかることですが、『ハイペリオン』と『ハイペリオンの没落』は“詩篇”という形でマーティン・サイリーナスが書いたことになっています。
この作品、とにかく色々な場面や時間が描写されます。それをもし領事目線で追ってしまうと、そこに領事がいなかった時の事は語れなくなっちゃうじゃないですか。だから領事を主人公にせず、神の目線として、ジョン・キーツを登場させたと思うんですよね。
んで、このハイペリオンシリーズは超大作ですから、完結するまでに9年ほどの年月がかかっています。
『ハイペリオン』が1989年発行で『エンディミオンの覚醒』が1997年発行ですね。
そうなると、設定にも矛盾が生じてきてしまう事があるわけですね。
そこでダン・シモンズは『ハイペリオン』と『ハイペリオンの没落』で書いたことを、詩篇としてマーティン・サイリーナスが書いた事にして、矛盾を解消したわけです。
ただ、まぁ、信頼できない語り手って言えば『ハイペリオン』自体が枠物語ですから、登場人物が話している内容が本当なのか?っていう所もありますね。
あー、確か、7人のうちの1人が裏切り者なんですもんね。
読者はそれを念頭に起きつつ、読み進めて行くんですが、いかんせん、それぞれが語る物語が面白くも信じられない話でして、それにはすべて惑星ハイペリオンとシュライクが関わってくるのです。
ほほう。個々に語る物語によって、徐々に惑星ハイペリオンやシュライクの骨格が読者にはわかってくるわけですね。
…どちらかといえば、徐々に“わからなくなってくる”ってのが正しいんじゃないでしょうか。謎が深まっていくので。
えー。読めば読むほどわからなくなってくる。それってどうなんですかね。
しかし、それは同時に、読めば読むほど“知りたくなってくる”んですよ。シュライクってなんなんだ!ハイペリオンってなんなんだ!と。
…で、結局、シュライクとはなんなんです?ハイペリオンとは?
ハイペリオンが何なのかがわかるのは『ハイペリオンの没落』で、シュライクがわかるのは『エンディミオンの覚醒』です。
そうですね。ね?読みたくなってくるでしょう?
えーっと…。どちらかというと逆ですね…。途方も無くなってくるというか。謎を知らなければ、知りたいと思わないわけで。
では、ここでとっておきの情報をお教えしましょう。
裏切り者は、『ハイペリオン』を読むだけで、誰がそうなのかわかります!
何を言ってるんですか!知りたいでしょう!裏切り者が誰かを!
そもそもですね、なぜ7人の巡礼者が6人しか物語を話さないのかが気になっているんですよ。それこそ、その人が裏切り者だからでしょう!?
ふふふ。君もまだまだ青いですね。
その秘密がわかるのも『エンディミオンの覚醒』ですよ。
く、くそう。話がループしてる気がする。『ハイペリオン』を読むことで気になったことが、秘密がわかってスッキリするのが3000〜4000ページも後だっていうのが、ハードルが高いんですよ!
君は、今まで食べたパンの枚数を覚えているんですか?
良いですか。これはミステリーではないのです。SF小説ですよ。謎がないミステリーは駄作かもしれませんが、謎がないSFは駄作ですか?違うでしょう。大前提として『ハイペリオン』はSF小説としてすごく面白いのです。そして、謎が解明される部分はおまけぐらいに思っていればいいのです。
何度も生き返る部族、戦場に度々現れる美女、自分の作品が現実になる詩人、若返っていく娘との生活、自分を殺した人を探してほしいという依頼、宇宙旅行の時差が生み出す遠距離恋愛。どうです?もうこれだけで充分面白そうでしょう?
自分を殺した人を探してほしい依頼…。死んだ人がどうやって依頼を?…確かに面白そうですが、やっぱり僕は謎は謎のままでいられると気持ち悪いというか…。
だからですね、パンをひとつずつ食べていって、美味しい美味しいといっているうちに、気がつけば途方も無い枚数を食べているって事もあるんですよ。ハイペリオンシリーズは、ひとつの大きなパンではなく、バラエティー豊かな美味しいパンの盛り合わせセットです。
美味しい、美味しいと食べていると、みるみるうちにパンは減っていき、皿が空っぽになった時に、皿の上に謎の答えを発見したようなものです。君の目的は皿の答えだけではありません。パンを美味しく食べる事も目的なのです。
あー、なるほど。わかりにくい気がしますが、わかった気もします。
『ハイペリオン』の魅力はとにかく6人の物語がすべて面白い事。ダン・シモンズのすべらない話なのです。
ま、とりあえず、ハイペリオンシリーズと言っていますが、『ハイペリオン』は『ハイペリオンの没落』で完結するし、『エンディミオン』は『エンディミオンの覚醒』で完結すると思って大丈夫です。つまりは上下巻8冊ではなく、2作品の上下巻4冊で良いと思えば、ハードルも下がるのではないでしょうか。
まぁ、2000ページでも多い気はしますが、それはつまり『ハイペリオン』だけ読んでも充分面白いってことですよね?
ええ。それは間違いありません。ただ、ひとつだけ言っておきたいのは、もし『ハイペリオン』を読んで、「面白くなかった」と感じたとしても、『ハイペリオンの没落』を読むと「面白いじゃないか!」に変わることもあるって事です。
…わかりました。それじゃ、とりあえず『ハイペリオン』から読んでみることにしましょう!
あ、ちなみにですね、最初に物語を話すルナール・ホイトは『エンディミオン』では悪の親玉になっています。
いやいや、こんな氷山の一角ですよ。ネタバレのひとつにもなりません。『ハイペリオン』は壮大な物語の人物紹介の作品だと言ったでしょう。すべての登場人物が複雑に絡み合ったスペクタクル超大作のSF小説をぜひご堪能ください。
うーむ…。スペクタクルって言っておけば、何でも良いと思っていませんか!?
批評を終えて
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「ヴィルギンスキー・ムラヴィーナヤ・ローザノフ!」
「スペクタクルって言っておけば」…って、あれ?僕は一体何を…。
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!なにが「スペクタクル」だよ。なんでも大掛かりにすればいいってもんじゃないよな!
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ〜!!
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
…あのすいません、ハイペリオンについて聞きたいんですが。
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!ダン・シモンズの1989年の作品でございますね。おまかせくださいませ!
あとがき
いつもより少しだけ自信を持って『ハイペリオン』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。名言や気に入った表現の引用
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『ハイペリオン』の言葉たちです。善悪は別として。
「アウスターの意図など、だれにもわからない。彼らはもはや、人間の論理に基づいて行動しているわけではないんだから」
手にしたグラスの縁からワインがこぼれるのもかまわず、マーティン・サイリーナスがげらげら笑った。
「うっひゃひゃひゃ、こいつはいい! まるでろくでもない人類が、いままで人間の論理に基づいて行動したことがあるみたいじゃないか!」
P.31
じつのところ、余命があと一週間しかないといわれても、ぼくはさまざまな謎に心惹かれずにはいられない。謎が解ければそれに越したことはないが、たとえ解けなかったとしても、謎解きに挑戦するだけで充分だ
P.43
ときとして、善意に基づく熱意と背教のあいだには、紙ひとえのちがいしかないものです
P.50
この一週間、ずっといだいていた恐怖もおおむねやわらいできた。何日もアンチクライマックスがつづくと、恐怖でさえも薄れてしまうものらしい。
P.93
たしかに、生きることは神聖だ――生きることがごく安っぽいものになりはててからの二千八百年間、教会がつねにそう考え、そう教え導いてきたことからもわかるように、それは教会の原理のひとつであり、わたしとていまもそれに執着してはいる――しかし、それよりもっと神聖なのは、魂だ。
P.164
暗黒のなかに歩みいるのであれば、毅然と――雄々しく、たしかな信仰心をもって――進まねばならぬ。死の収容所のなかで、核の炎のなかで、癌病棟で、ユダヤ人大虐殺のさなかで、孤独な静寂につつまれ、何世代も何世代ものあいだ、死に直面しながらも信仰心を失わず、希望こそいだかぬにせよ、これらのすべてにはなんらかの理由があるのだ、これほどの苦しみを味わい、これほどの犠牲をはらうだけの意味があるのだと祈りながら、暗黒を見すえつつそのあぎとへと歩んでいった、何百万もの先人のように。論理も事実も納得のいく理屈もなかった先人らが暗黒のただなかへはいっていくさいには、それこそごくごくかぼそい希望の糸と、いまにもゆらぎそうな信仰心しかなかったにちがいない。しかし、その先人たちが暗黒をまえにしてわずかな希望をつなぐことができたのなら、わたしにもまたおなじことができるはずだ……
P.165
どんなことであれ、最初に出会ったとき、その対象を心で学べ
P.328
初期の小生の詩たるや、じつにひどいしろものだった。たいていの三流詩人がそうであるように、小生もその事実に気づかず、創作という行為そのものによって、小生が生みだしていたなんの価値もない愚作群にもなんらかの価値が付与されるなどと、傲慢にも思いこんでいたものさ。
P.330
公表という苛酷な踏み絵を踏むまでの、おのれの詩人や作家としての才能に対する思いこみは、自分は死なないという若者の思いこみに似て、ナイーブで無害であり……やがてかならず訪れる幻滅もまた、同質の苦痛に満ちている。
P.331
詩人の真価は、有限な表現による言語の舞いではなく、知覚と記憶、知覚されるものと記憶されるものへの感受性、それらのほぼ無限の組みあわせにこそある。
P.336
“現実に対して生み落とされる狂気――その産婆が詩人だ。詩人はありのままの現実、その現実のなりうる姿を見ようとはしない。そのあるべき姿のみを見る。”
P.341
二十世紀オールドアースのファーストフード・チェーンでは、死んだ牛の肉を仕入れて、脂を敷いた鉄板の上で焼いて、発癌物質を添加したうえに、石油ベースの発泡材でつつんだものを、九千億個も売っていたのよ。それが人間なの。そういうものなのよ
P.365
もちろんソルは、サライに出会うまで、自分が孤独だなどと思ったことはなかった。だが、はじめて彼女と握手をかわし、同時にそのドレスにフルーツカクテルをこぼしてしまってからは、じつは自分が孤独であり、彼女と結婚できなければ人生はむなしいままだと悟ったのだった。
P.11 (下巻)
かつては承知していたのに、いつのまにかわすれてしまっていたことだが、ソルは改めて、小さなコミュニティのありがたみを実感した。地域社会は干渉的なことも多く、例外なく偏狭で、ときに個人レベルで詮索的なこともあるが、いわゆる“民衆の知る権利”なるたちの悪い遺産を行使したことはいちどもなかったのである。
P.85 (下巻)
人生の五十五年間を倫理体系にかかわる物語の研究に捧げてきたソル・ワイントラウブは、いま、ひとつのゆるぎない結論に達していた。無垢なる者に対し、慎みあるふるまいよりも服従を優先するような神、概念、もしくは宇宙原理は、すなわち悪だということだ。
P.94 (下巻)
――だが、はたから見えないからといって、ソルよ、それが存在しないとはかぎらない。
――ぶざまな言い方だな。なにかをいうのに、三つも“ない”を重ねるのはよくないぞ。とくに、さほど深みのないことをいうときにはな。
P.120 (下巻)
ルーサス人の強引さは胃洗浄器なみだが、倍もたちが悪い
P.220 (下巻)
“もしや超存在なるものがいて、ぼくの精神が陥る優美な、しかし本能的な態度というものをおもしろがっているのではないだろうか。ちょうどぼくが、オコジョの警戒や鹿の不安をおもしろがるように。路上での喧嘩は憎むべきものだが、そこに見られるエネルギーはすばらしい。超存在にしてみれば、人の考えや反応もおなじように思えるのではなかろうか――あやまってはいるが、すばらしいものであると。そしてそんな反応こそは、詩を詩たらしめるものなのだ”
P.245 (下巻)
人生、安全なんてものはないのさ
P.259 (下巻)
ものごとを知るためには、まっとうな暮らしを送らなければならないの。アーロンのおかげで、それがわかったわ。子供を育てるということはね、現実とはなにかという感覚を研ぎ澄ます効果があるのよ
P.364 (下巻)
引用:『ハイペリオン』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
ハイペリオンを読みながら浮かんだ作品
著者:ライマン・フランク・ボーム
翻訳:柴田元幸
出版:KADOKAWA
ページ数:168ページ
おや?ライマン・フランク・ボームの『オズの魔法使い』ですか。
『ハイペリオン』の最後で巡礼者たちがオズの魔法使いの映画の曲を歌っている所が印象的だったので。この翻訳は翻訳の神様、柴田元幸さんがやっているのも熱い!
レビューまとめ
ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。
ハイペリオンシリーズを読み終えた〜!
ぶっちゃけ、僕自身に色々とあったので8冊すべてを読み終えるのに9ヶ月ぐらいかかりました。僕の人生で一番長い作品だったんじゃないかな…。
それにしてもこのハイペリオンシリーズのすごい所は9ヶ月と長く期間がかかったのも関わらず、用語や登場人物がわからなくならない所でしたね。
普通、読書に時間をかけてしまうと、「あれ?これ誰だっけ?」とか「ん?なんだこの単語は…」ってなってしまうんですが、この作品はとにかくいつ読み始めても、すぐにその世界観に戻っていけるんです。
それは出てくる登場人物すべてがキャラが濃いっていうか、愛すべきキャラクターたちで、特にこの『ハイペリオン』に出てきた巡礼者たちは、のちの『エンディミオン』の方では伝説の人物として扱われる存在にも関わらず、本当に人間臭いキャラなのです。
キャラが立っている作品って、やっぱり面白いですよね。例えば、ドラえもんのジャイアンといえばこんな性格って頭に浮かぶじゃないですか。あーゆーキャラがとにかく多い。
そしてそういうキャラが多いと、ドラえもん的というか、とにかくずっと触れていたい、終わって欲しくない作品になると思うんです。
しかも、驚くべきはその設定の濃さです。
文章の映像化というんでしょうか、文字を読んでそれを頭の中で想像するだけで楽しくなってくる。こういう未来が来たら本当にすごいなぁ〜と思ったり、あ!なんかこの設定あれに似てない!?なんて事を思いながら読むのが本当に楽しかったです。
漫画で言えば『攻殻機動隊』や『寄生獣』、映画で言えば『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』とか『ターミネーター2』などなど、読みながらふと頭に浮かんできました。
それになんと言っても、惑星間をどこでもドアで移動できるんですよ。洒落ているのは、家の中の至るところにどこでもドアを設置して、お風呂は水星、居間は土星、トイレは海王星なんて事をやっている世界なのです。
すごい世界ですよね。SFが苦手とか思っていた僕も、この設定には胸をときめかせました。
そしてシュライク。もうどう考えてもジョジョです。時間を操るとか、最強です。スタープラチナ・ザ・ワールド!
この『ハイペリオン』では、まだまだシュライクは謎の存在ですが、シリーズを通してシュライクは登場し続けます。そして徐々に僕らは殺戮者であるシュライクでさえも好きになってしまうのです。
僕はきっと一生忘れないでしょうね、「シュライク」という単語を。
ではでは、そんな感じで、良ければハイペリオンシリーズの入り口であるダン・シモンズの『ハイペリオン』をぜひ読んでみてくださいませ。文句なしにおすすめです!
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます!
P.S.
…あ、翻訳については全然触れませんでしたが、とにかく読みやすかったです。そして巻末の解説も面白いです。
ではでは。
最後にこの本の点数は…
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ハイペリオン - 感想・書評
著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:920ページ(上下巻)
ハイペリオン
- 読みやすさ - 97%
- 為になる - 71%
- 何度も読みたい - 98%
- 面白さ - 99%
- 心揺さぶる - 87%
90%
読書感想文
ハイペリオンシリーズの最初にして、枠物語という特殊な書き方をしている『ハイペリオン』は、6人に物語を語らせることで、これから始まる壮大な物語の登場人物や設定などを様々な面から描き出して、読者にわかりやすく楽しく紹介している作品。読み進めていくうちに積み上がっていく不思議な謎たちは、次作から徐々に解明されていき、すべてを読み終えた後は何にも代えがたいカタルシス体験をもたらしてくれます。大掛かりにな前フリにして、その前フリでさえもワクワクドキドキが止まらない『ハイペリオン』を是非!
User Review
69.67%(3 votes)