ハイペリオンの没落 - 書籍情報- 著者:ダン・シモンズ
- 翻訳者:酒井昭伸
- 出版社:早川書房
- 作品刊行日:1990年
- 出版年月日:2001年03月31日
- ページ数:1050
- ISBN-10:4150113483
BOOK REVIEWS
ハイペリオンの没落というダン・シモンズの小説は、4作続くハイペリオンシリーズの第2作品目にして、前作『ハイペリオン』と今作『ハイペリオンの没落』で一旦話はまとまります。
3作品目の『エンディミオン』と4作品目の『エンディミオンの覚醒』は時代が変わって、新しい主人公になるので、まぁ続きが読みたい人はどうぞという感じでしょうか。
個人的には4作品の中で、1番凝った作りになっているのは今回の『ハイペリオンの没落』だと思っています。
というのも、この作品、とにかくどんでん返しがすごい。
前作『ハイペリオン』でばらまいた謎という謎が回収され始め、「え!?そうだったの!?」というあっと驚く展開に、脳みそが沸騰してピーピーと脳内ヤカンが鳴った状態で次々とページをめくってしまいました。
ランナーズハイならぬ、リーディングハイとも言える状態で読書が楽しすぎたのです。
まぁ、『ハイペリオン』という名前がついた小説なのに、謎の惑星ハイペリオンに到着するまでが前回の話でしたからね。今回はがっつりハイペリオン内部でバチバチやっております。
いわゆる解答編というものでしょうか。マクロだった世界がミクロになって、数々の謎が解明されていきます。
しかも科学的に。神秘的に見えたものが科学的に解明されていくのです。これこそサイエンス・フィクション!
すげーよ!ダン・シモンズ!
ということで、今回は『ハイペリオンの没落』についてレビューしてきたいと思います。
この作品は、前作で「ついていけない…」という人でも「面白いじゃないか!」と評価が一変する作品になっておりますので、お楽しみに…
スポンサードリンク
小説『ハイペリオンの没落』 – ダン・シモンズ・あらすじ
著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:1050ページ(上下巻)
いよいよハイペリオンにたどり着いた巡礼者たちは、開かれつつある〈時間の墓標〉とシュライクの謎を突き止めるべく、先へ進んでいた。そんな中、宇宙では高度な予測能力をもつテクノコアの助言を信じた連邦のFORCE無敵艦隊と宇宙の蛮族アウスターの壮絶な戦いの火蓋が切って落とされようとしていたのだが…
読書エフスキー3世 -ハイペリオンの没落篇-
前回までの読書エフスキーは
あらすじ
書生は困っていた。「ギャグの強要ハラスメントですよ!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『ハイペリオンの没落』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
ハイペリオンの没落 -内容紹介-
大変です!先生!ダン・シモンズの『ハイペリオンの没落』の事を聞かれてしまいました!『ハイペリオンの没落』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
“スペースオペラ群像劇”デスナ。
群像劇…。前回は枠物語だったのに?正直な所『ハイペリオンの没落』は面白い本なのでしょうか?
無敵艦隊が出撃する日――世界のありようが終焉を告げるまさにその日、ぼくはパーティーに招かれた。その夕べ、〈ウェブ〉を構成する百五十以上の惑星では、いたるところでパーティーが開かれていたが、唯一重要なのは、ぼくの招かれたそのパーティーだけだった。
引用:『ハイペリオンの没落』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
コンナ一文カラ始マル“ダン・シモンズ”の1990年の作品デス。読メバワカリマス。
あれ?一人称が「ぼく」になってる。そんな登場人物いたっけな…。
読む前にレビューを読むと変な先入観が生まれますヨ?先に作品を読んだ方ガ…
ええい、内容が気になってしまう!先生、失礼!(ポチッと)
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
ハイペリオンの没落 -解説-
今回はハイペリオンシリーズの2作品目『ハイペリオンの没落』です。
『ハイペリオンの没落』はローカス賞、星雲賞、英国SF協会賞を受賞した作品です。ヒューゴー賞とネビュラ賞はノミネートされましたが、受賞せずです。
前作はヒューゴー賞受賞していましたよね。あのー、ヒューゴー賞とネビュラ賞って良く聞くんですけど、どんな賞なんですか?
2つともSFやファンタジー作品に対して行なわれる、知名度が高い文学賞ですね。ヒューゴー賞はファンの投票、ネビュラ賞は専門家の投票によって決まります。
ほー。投票者が違うんですね。ちなみにダブルクラウンってのもよく聞くんですけど…。
ダブルクラウンはヒューゴー賞とネビュラ賞を同時に受賞することですね。有名な所で言えば、オースン・スコット・カードの『
エンダーのゲーム』が達成しています。
ダブルクラウンを達成した作品って、別に少なくもないんですが、普通はどっちかに偏るんですよ。ファンにウケても専門家にウケないとか、またはその逆だとか。
それでいうと、ハイペリオンシリーズはファンにウケて専門家にウケない側の作品なんです。
調べてみたら、前回の『ハイペリオン』はヒューゴー賞を受賞しているのに、ネビュラ賞はノミネートさえされていないんですね。
ええ。ただ、特筆すべきはシリーズ4作品中、唯一ネビュラ賞にノミネートされたのが今回の『ハイペリオンの没落』って事です。
ヒューゴー賞は結構ノミネートされるのに、ネビュラ賞は『ハイペリオンの没落』だけなんですね。
そうなんです。ネビュラ賞って専門家による投票って言いましたが、具体的には作家や編集者、批評家などのいわゆる同業者的な人たちの推薦によって作品が選出されるんですよ。
これは私の勝手な推測ではあるんですが、その性質上、ヒューゴー賞は単純に面白いかどうか、ネビュラ賞は技術的にすごいかどうかが基準になってくると思うんですよね。
ほら、お笑いのM-1グランプリも視聴者は面白いかどうかで判断しますが、審査員って「ネタの構成が尻上がりだった」とか、「4分の使い方が抜群だった」とか目の付け所が違うじゃないですか。
その推測をもとに『ハイペリオンの没落』だけがネビュラ賞にノミネートされたのを考えてみると、やっぱりこの作品が優れているのって、その技術力、とくに構成力が抜群だと思うんですよ。
ええ。前回の『ハイペリオン』は枠物語という形を取っていましたよね?
はい。物語の中で物語を語る形式を取っていました。
それに対して、今回の『ハイペリオンの没落』は群像劇という形をとっています。
群像劇って、グランドホテル形式とか言われているやつですよね?多数の登場人物の視点から物語を語って、最後には一つに収束していくっていう。
そうです。日本で言えば、伊坂幸太郎とかが得意としている形式ですね。
あー、伊坂幸太郎の『
ラッシュライフ』とか、初めて読んだ時に衝撃的でしたね。全然関係なさそうに見える人たちの話がこんな形で繋がってくるの!?って。
『ハイペリオン』で、惑星ハイペリオンに向かった巡礼者たちは、ハイペリオンに到着後、色々なことがきっかけで離れ離れになるんですよ。それで、それぞれの登場人物たちが様々な出来事を経験していく。
ほほう。それで謎の惑星ハイペリオンが、多数の登場人物によって、様々な角度で描かれていくわけですね?
そうです。しかも、今回は前回ちょこっとしか出てこなかった、連邦のトップなども主要人物として扱われます。
連邦のトップはCEOと呼ばれる役職でして、マイナ・グラッドストーンという女性が就いています。まぁ、宇宙の大統領ですね。そのCEOが宇宙の蛮族アウスターと戦っていく光景も描かれるわけです。
へー。惑星ハイペリオンの出来事と並行して、宇宙戦争も描かれるんですね。
1つの惑星だけでも複数の視点で描いていくのに、さらにもっとデカい宇宙の事も語るわけですよ。そりゃーもう話が壮大になるじゃないですか。
どうやって収束させるんだって話じゃないですか。風呂敷広げ過ぎだろう!?って。
それをダン・シモンズはキレイに収束させるんですよ。最後にはあっと驚く方法で。
SFを読むにあたって、注意していることってなんですか?
えー…。なんすかね、設定やルールを知って世界観に入り込むことですかね。SFって設定が違うと世界観が変わるんです。だからなるべく設定を理解して、想像力でその世界を自分の頭の中に構成するっていうか。
えーっと、映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』で、デロリアンっていう車のタイムマシンが出てきますが、燃料にプルトニウムが必要なんですよ。
んで、過去に飛んだ時にプルトニウムが手に入らないんですね。現在でさえ入手困難な物質なんで。
これでこのSF作品にはルールが1つ出来るわけですね。
ええ。タイムトラベル出来る回数が限られているっていうルール。ドラえもんのタイムマシンはいくらでも行ったり来たり出来るけど、バック・トゥー・ザ・フューチャーではそれが出来ない。
このルールがあるから、それを打破するために過去では雷を利用して、未来ではゴミを燃料にするっていうストーリーが面白く感じる。同じタイムマシンなのに、ドラえもんのタイムマシンとは別の世界観。
あー、なるほど。確かにそうですね。前に『夏への扉』を扱った時も、冷凍睡眠(コールドスリープ)で未来には行けるけど、過去には行けないっていう設定が面白いみたいな話もしましたよね。
あー、ありましたね。タイムマシンがない世界観なんですよね。
君が言ったように、読者はその作品で語られているルールを作品の世界観として捉えるわけですね。ですがこの『ハイペリオンの没落』はそのルールを盲点として、どんでん返しをさせるのです。
なんでサンドイッチマンのボケを。
いや、そうじゃなくて、ルールを盲点としてどんでん返しさせるって、どういう事なのかわからないんです。
君が言ったように私達はSF作品を読む時に、誰からも頼まれたわけじゃないのにその世界観を頭に構築して読む「癖」がありますよね?
当然のこととして、頭の中で想像するわけです。
ええ。だからこそバック・トゥー・ザ・フューチャーも面白くなるんじゃないですか。
そこを逆手に取って、ダン・シモンズはそこに秘密を隠すんですよ。
わからないものはわからないんですよ、こんにゃろー!
とりあえず、ラストで2度驚くって思っとけ、こんにゃろー!
…そもそも、あらすじを教えてもらっていないんで、想像がしにくいんですよ!
すみません、私が悪かったですね。では、少々あらすじを説明していきましょうか。
惑星ハイペリオンに到着した巡礼者たちは、時間の墓標へ向かいます。
ハイペリオンにある遺跡です。まぁ、地球に到着したけど、それからエジプトのピラミッドへ向かうみたいなもんでしょうかね。遺跡で異変が起こっているのを調査しに行くわけですね。
ただ、時間の墓標へ行くのも結構一苦労でして、乗ってきた宇宙船でそのまま近づく事が出来ないんですね。
それで巡礼者たちは時間の墓標へ向かう途中途中で離れ離れになっていくんです。そしてシュライクの餌食になっていく。
ホラー映画でよくある展開ですね。一緒に行動すればいいのに、なぜか個々で行動してしまう。
まぁ、そうしないと物語が展開しませんからね。そもそも巡礼者たちは、時間の墓標へ向かうのを中止しようとしていたんですよ。
被害者が出てしまいましたからね。巡礼を一旦やめて、もう一度出直そうとしていたんです。なので連邦のトップに通信を飛ばして脱出用の手段を要請したんですが、見事に無視されます。
なんと!CEOのマイナ・グラッドストーン、ひどいやつ!
実はですね、そうせざるを得なかったのです。宇宙戦争がやばい事態になっていたので。
え?だって、前回、楽勝だって言ってたじゃないですか。連邦 vs アウスターは象とアリの戦いだって。
それが実際はそうじゃなかったんですよ。戦う先々で惨敗。
なんでですか。だって、連邦には未来でさえほとんど予測できてしまうスーパーなAIが顧問官でいるんでしょ?
ところが、そのスーパーなAIが「我々は常に平等な立場だ」みたいな事を言いだしたのです。
ですから、時間の墓標までもアウスターに奪われるわけにはいかなかったのです。
ただでさえ劣勢なのに、最終兵器までも奪われたら連邦のおしまいという事ですね。
ええ。なのでなんとしても巡礼者たちには時間の墓標に到達してもらわなければならないのです。
しかし、巡礼者たちは徐々にシュライクの餌食になっていきます。
そんな彼らの状況を打開してくれるのは、ジョン・キーツです。
でた!ジョン・キーツ!実際に存在したイギリスの詩人なんですよね?そして、この物語ではサイブリッドというアンドロイドとAIの合体みたいな存在で復活していると。
前回存在したジョン・キーツは、女探偵のブローン・レイミアの恋人として登場しましたが、今回は画家として、マイナ・グラッドストーンの近くにいます。
まぁ、サイブリッドですから、複製みたいなのが可能なわけですよ。
まぁ、そうですね。んで今回はジョセフ・セヴァーンと名乗っています。
ちなみに前回のジョン・キーツもジョニイと名乗っていました。
そうでしたね。僕もあれから『ハイペリオン』読みましたよ。ジョニイ、最後死んじゃったのがショックでしたけど。
そのジョニイのコピーがジョセフ・セヴァーンなのです。そして彼には特殊能力がありまして、なぜか巡礼者たちがどんな状況になっているのかを夢で観ることが出来るんですね。
あー、確か前回言ってましたよね、ジョン・キーツの視点で描かれているって。
そうです。なので巡礼者たちの群像劇の情報が神の視点、ジョセフ・セヴァーンによって、マイナ・グラッドストーンに伝わり、徐々に収束していくんですね。宇宙戦争が。
しかも、最後はあっと驚くことが2回も用意されている。
うーむ。結局そこなんだよなぁ。わからないのが。…あ、そういえば前回のレビューで全然聞かなかったことなんですけど、この作品って読みやすさはどうなんです?
前回の『ハイペリオン』は読みやすさを97点で採点しましたが、今回も同様に読みやすい作品だと思いますよ?
え…。前回が97点だったんですか?…ぶっちゃけ、僕は読むの苦労したんですけど。
翻訳は素晴らしいと思いますけどね。何が読みにくかったですか?
風景描写とかがあまりにも壮大過ぎて想像できないというか。スケールがでかすぎて頭の中に想像できないんですよね。
ダン・シモンズの良い所は、読者が忘れてそうな事や、わからない所は別の形でおさらいのように繰り返し親切に紹介してくれる所でして、「ん?」と思ってもゴリゴリ読んでいくと、そのうち「あ!」という事になりますよ。
ええ。徐々に風景に対する情報が増えていきますから、こんな感じかな?って想像出来るようになります。なので、わからなくても「山の事言ってんなぁ〜」ぐらいで流して先に読み進めて大丈夫です。後にどういう山だったのかとかわかるようになりますから。
そーかー。僕は完璧主義なので、ちょっとでもわからない事あると、前のページに戻ったりしちゃうんですよね。だから『ハイペリオン』は読むのに苦労しました。
ハイペリオンシリーズは、きっと後でまた読み返したくなりますから、ペンキ塗り方式の方が良いですよ。何度も塗り塗りするように、何度も読むことで理解出来ればいいか!ぐらいな心持ちでわからなくても読み進める。もちろん、本編を読み進めていくだけで理解出来るように書かれていますけどね。
ええ。それに『ハイペリオン』はいわゆる謎をばらまく導入編でしたから、今回の『ハイペリオンの没落』は解答編として前作よりは確実に読みやすいと思います。「わからない」が「なるほど!」に変わる瞬間がいくつも隠されています。
なんか塾のCMみたいですね。わからないをわかるに変える中学講座みたいな。
『ハイペリオンの没落』、いつ読むんですか?
な、懐かしいギャグをこうも堂々と…。
今のは完全に、先生が導いたでしょ!それに「今でしょ」はギャグじゃないですよ!
ま、『ハイペリオンの没落』を読み終えたらきっとこう言いたくなります。ほら、あれですよ。最高の読書が出来た日はどんな日ですか?
なんて日だ!…って、もうそれギャグの強要ハラスメントですよ!…で、結局設定のどんでん返しって。。。
批評を終えて
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「スラ・ネテ・パ・シ・ベート!」
「ギャグの強要ハラスメントですよ!」…って、あれ?僕は一体何を…。
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!なにが「強要ハラスメント」だよ。お前の仕事、俺がやってるんだから、それこそ居眠りハラスメントだよ。
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として、あとは一人でここの案内やってもらうからな!
えーっ!?一人で!?パワハラじゃないっすかー!!
寝てしまった時間分はちゃんと働きなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
…あのすいません、ハイペリオンの没落について聞きたいんですが。
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!ダン・シモンズの1990年の作品でございますね。その作品は設定のどんでん返しが。。。
あとがき
いつもより少しだけ自信を持って『ハイペリオンの没落』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。名言や気に入った表現の引用
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『ハイペリオンの没落』の言葉たちです。善悪は別として。
映画や立体映画の宇宙戦シーンには、ぼくはいつも退屈をおぼえるが、これが本物となると、それなりに興味深い面もある。むしろ、一連の交通事故の生中継を見ているような感じといえばいいだろうか。この撮影にかかるコストは――何世紀も前からずっとそうであったように――通常予算のホロドラマよりも格段に安いはずだ。莫大なエネルギーが消費されているにもかかわらず、本物の宇宙戦が見る者にいだかせる印象は貧弱そのもの。宇宙はあまりにも広大であり、人間の艦隊も艦艇も超弩級艦も戦闘艦も、ごくごくちっぽけなものでしかない。
P.109
はじめて会う人物と旧交をあたためていただけですよ
P.195
芸術家が箔をつけるには、死ぬか引退するか、どちらかがいちばん
P.215
ふと、スウィフト描くガリバーの話を思いだした。理性ある馬の国――フウイヌム国からもどってきたあと、ガリバーは人類に嫌悪をおぼえた。それはきわめて強烈な嫌悪で、厩でなければ――馬のにおいと存在感で安らぎをおぼえなければ――眠れなくなったほどだ。
P.254
苦痛と犠牲になんらかの価値があるという保証はまったく得られませんでしたよ。ただただ、苦痛だけでした。苦痛の果ての暗黒、そしてまた苦痛のくりかえし……
P.443
もしかすると、人はすでに、あまりにも神を冒瀆しすぎたのかもしれません……
P.444
ついに悟った。結局のところ――ほかのすべてが塵と化すなかで――墓までもっていけるものは、愛する者に対する変わらぬ誠意だけであることを。そしてそんな愛の証は、信じることだ――無条件に信じてやることだ。
P.475
「未来にはふたつの選択肢しかない」と、静かに応じた。「戦争と極度の不安定か、平和と完璧な崩壊か。わたしは戦争を選んだ」
P.11(下巻)
盗むべきものがあるとすれば、わすれられた名人の技だ
P.23(下巻)
これは詩人への、宇宙からの贈り物なのだ。自分が感じとり、詩に移しこもう、散文に封じこめようと、長く無為な一生を費やしたあげく、結局徒労におわったものの正体は、苦痛の物理的な投影にほかならない。いや、苦痛よりももっと悪いものの――不幸。なぜなら宇宙は、万物に苦痛を与えているからだ。
P.31(下巻)
この世に古い本のにおいほどすばらしいものはない。
P.56(下巻)
死ぬのはたいへんだ。生きることはもっと難しい。
P.71(下巻)
彼らはわたしの文書も焼いてしまうでしょうか? いくら彼らでも、一万年におよぶ思考の成果を滅ぼしてしまえるものでしょうか?
P.113(下巻)
「金塊をやる」と領事はいった。
いつの時代になっても、唯一効き目があるのはこの単語だ。
P.153(下巻)
人類が銀河系に広まるさまは、癌細胞が生体にはびこるさまとまったくおなじではありませんか。人類はみずからの膨張と繁栄しか眼中になく、滅びゆき虐げられる無数の生物種など一顧だにせず、ひたすら殖えつづけた。そして競合する知的生物を、つぎつぎに滅ぼした
P.263(下巻)
来世というものはあるのかしら。目が覚めてみたら、すべてが夢だったなんていうことがあるのかしら。きっとあるわよね、人間というものは、こんな苦しみを受けるために創られたんじゃないもの
P.341(下巻)
人が自意識と呼ぶものは、苦しみの波濤のあいまに生じる澄んだ潮だまりにすぎない。人はみな、みずからの苦しみに耐え、それを抱きしめるように創られている、運命づけられている――そう、狼の仔を腹に隠したスパルタ人の泥棒がその仔に腸を食いつくされるように。
P.341(下巻)
兵士が政治状況を理解することはめったにない
P.385(下巻)
だれにでもなれたはずなんだ、ハント。愚かしくも最大の、人類のプライド。ぼくらは苦痛を受けいれる。ぼくらは子供たちのために道を切り拓く。そういう態度こそが、ぼくらの夢見た神になる権利をもたらしたんだ
P.430(下巻)
われわれは困難を喜び、異質さを歓迎する。われわれは宇宙をみずからに適応させたりはしない……われわれのほうが適応するのだ
P.452(下巻)
機械とわれわれを隔てるものは、夢だけなのかもしれんぞ
P.474(下巻)
引用:『ハイペリオンの没落』ダン・シモンズ著, 酒井昭伸翻訳(早川書房)
ハイペリオンの没落を読みながら浮かんだ作品
著者:谷川流
イラスト:いとうのいぢ
出版:角川書店
ページ数:307
おや?ライトノベルの『涼宮ハルヒの憂鬱』ですか。
情報統合思念体の組織とか今作のテクノコアっぽいし、長門と朝倉の戦いがシュライクっぽいなぁと思いました。
長門有希が読んでいるシリーズなだけありますね。
レビューまとめ
ども。読書エフスキー3世の中の人、ポン・デ・ケージョ(ブラジルのチーズパン)がマイブームの野口明人です。
レビューの続きというわけではないですが『ハイペリオンの没落』を読み終えた後、「なんて日だ」ではなく「なんてこったい!」と叫びました。
この本、ラストで2回驚くと書きましたが、読みながら驚いた回数は2回では足りません。ずっと驚きっぱなしなのです。
どんでん返しというか、え!?マジで!?という驚愕の連続。
あぁ。言いたい!ネタバレ出来ないのが非常に残念で、これほどネタバレ無しレビューに困った作品はなかったかもしれない。
設定のどんでん返しは読んでもらわないと説明が出来ませぬ…。
ただ、この作品はどんでん返しだけが魅力というわけではなく、前回とは打って変わって主要人物になったCEO、マイナ・グラッドストーンの魅力も素晴らしいです。
女性ながら、リンカーン大統領になぞらえられるその人物像の心理描写がたいへん素晴らしく、最後の決断なんて、どれだけ悩み抜いたんだろうと、読んでいるこちらの胸も締め付けられるほどでした。
ダン・シモンズは本当にキャラクターを描くのが上手なんですね。
マイナ・グラッドストーン。ただの偉そうなおばーちゃんかと思いきや、これほど人民を愛しているCEOだったとは。
読めば読むほど、どんどん「好き」が増えていく。
ただ、シュライクの存在によって、それらがどんどん破滅していく。せつねー!
…なのに心苦しくも読むことを止められないストーリー展開っていうね。
あー、本当に面白い。『ハイペリオン』を舞台とした物語は一旦終わりますが、『ハイペリオン』から『ハイペリオンの没落』の流れが素晴らしすぎました。
あまりにも素晴らしすぎて読み終えた後、こんな面白い小説、まだまだ続けられるのだろうかと心配になりました。蛇足で続けて、駄作になってしまうシリーズものは多いものです。
そう思いながら次作『エンディミオン』を手に取る僕ですが、実は僕が4作品の中で一番好きだったのは『エンディミオン』なのです。
この作品の巻末の解説者も同じことを言っていましたが。
というわけで、まだまだこんな作品が読み続けられる幸せを噛み締めて次のレビューを書きたいと思います。
ではでは、そんな感じで、『ハイペリオンの没落』でした。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます!
良かったら別の記事も読んでいただけると嬉しいです。
最後にこの本の点数は…
スポンサードリンク
ハイペリオンの没落 - 感想・書評
著者:ダン・シモンズ
翻訳:酒井昭伸
出版:早川書房
ページ数:1050ページ(上下巻)
ハイペリオンの没落
- 読みやすさ - 95%
- 為になる - 71%
- 何度も読みたい - 98%
- 面白さ - 99%
- 心揺さぶる - 90%
91%
読書感想文
「この20年のSF小説から1冊だけ読むとしたら何がいい?」と聞かれた時に『ハイペリオン』と『ハイペリオンの没落』の上下巻を差し出すのがSF愛好者の正しい態度だろうと解説者大森望に言わしめた今作は、とにかくすごい。何がすごいって、キャラクターから設定、文章構成、心理描写…などなど、挙げればきりがないほど。あぁ。内容を忘れて、もう一度読みたい…。