双頭の悪魔 - 書籍情報- 著者:有栖川有栖
- 出版社:東京創元社
- 作品刊行日:1992年02月01日
- 出版年月日:1999年04月26日
- ページ数:640
- ISBN-10:4488414036
BOOK REVIEWS
双頭の悪魔という有栖川有栖の推理小説をご存じですか?
この作品は「週刊文春ミステリーベスト10」で1992年に4位を取っただけでなく、「このミステリーがすごい!」で1993年に6位、2008年に発表された「このミステリーがすごい!20周年ベスト・オブ・ベスト」ではなんと8位にランクインした程の作品なのです。
しかも僕が好きなアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の中の読書好きなキャラが選ぶ、長門有希の100冊にも選ばれています。
旅に出ていた僕は何気なくこの本を手に取ったのですが、なんと偶然にも本を読んでいる場所と、この小説の舞台が重なっているという運命。
この作品の舞台は四国なのです。
大歩危小歩危を越えて祖谷のかずら橋を渡りながらヒーヒー怖がっていた高所恐怖症の僕は、この小説を読みながらもヒーヒー言っているのでした。
それはなぜか?
という事で『双頭の悪魔』についてレビューをしていきたいと思います。
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小説『双頭の悪魔』 – 有栖川有栖・あらすじ
著者:有栖川有栖
出版:東京創元社
ページ数:640ページ
英都大学推理小説研究会の一人、マリアは四国に行ったまま帰ってこなくなった。それを心配した父は英都大学推理小説研究会のメンバーに娘を迎えに行ってくれないかと懇願する。四国に渡ったメンバーだったが、干渉を拒む木更村の人々。大雨の日に強硬手段で潜入し、マリアに接触したのだが架橋が落ちて木更村は陸の孤島となった。川を挟んだ両方の村で殺人が起こり、二手に分かれてしまったメンバーはそれぞれの事件の真相究明に奔走する…。
読書エフスキー3世 -双頭の悪魔篇-
前回までの読書エフスキーは
あらすじ
書生は困っていた。「長期連載すると最初とキャラが全然違う事ってよくありますからね!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『双頭の悪魔』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
双頭の悪魔 -内容紹介-
大変です!先生!有栖川有栖の『双頭の悪魔』の事を聞かれてしまいました!『双頭の悪魔』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
“有栖川有栖の最高傑作と言われている推理小説”デス。
…最高傑作!?正直な話『双頭の悪魔』は面白い小説なのでしょうか?
この道を通ったことがある。
私はそう思った。
いや、そう感じた。ここが初めて歩く道であることは確かなのだから、自分は単にありふれた既視感と戯れているだけなのだ。
引用:『双頭の悪魔』有栖川有栖著(東京創元社)
コンナ一文カラ始マル“有栖川有栖”の1992年の作品デス。読メバワカリマス。
ちょっとレビューしてくださいよ。
読む前にレビューを読むと変な先入観ガ…
ええい、こちらは時間がないんだい!先生、失礼!(ポチッと)
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
双頭の悪魔 -解説-
有栖川有栖という作家をご存知ですか?
いやー、正直、ほとんど知らないんですよね。ブックオフとかに行くと「あ行」の作家だからちょっと目に入るぐらいで。
有栖川有栖はですね、エラリー・クイーンに憧れを持った作家なのです。
エラリー・クイーンと言えば、ここでも『
ギリシャ棺の謎』という推理小説のレビューをしましたよね。
そうですそうです。挑戦謎解き小説ということで扱いましたよね。
あー、そうでした。読者への挑戦状みたいな感じなのが最後に突きつけられるんですよね。
ええ。有栖川有栖もね、『双頭の悪魔』では読者への挑戦を突きつけてくるんですよ。しかも3回。
ええ。それだけではなく、主人公の名前も有栖川有栖でして、エラリー・クイーンを強く意識しているのがわかります。
そーなんですね。確かにエラリー・クイーンも、主人公の名前がエラリー・クイーンでしたよね。
ちなみに有栖川有栖は日本の推理作家・鮎川哲也に見いだされた作家ということでも有名です。
鮎川哲也。また「あ行」の作家ですね。綾辻行人と言い、阿刀田高とか芦辺拓とか、日本の推理作家は「あ行」で始まる人多いですね。
あー、それは本屋さんの並びがあいうえお順で並べる書店が多いから自然とそうなっているんじゃないでしょうかね。やっぱりみんな「あ行」の棚から見ちゃうでしょう?
確かになんの目的もなく本屋さんに行ったときはとりあえず「あ行」から見ますね。
…ということで今回の『双頭の悪魔』は有栖川有栖の「学生アリスシリーズ」第3作品目になります。
あいうえお順ってことは、やっぱり人間は順番に読んでみたくなりがちでしょう?そういうところでいうと『双頭の悪魔』は先に『
月光ゲーム Yの悲劇’88』と『
孤島パズル』という作品が前にあるのです。
『Yの悲劇’88』の「’88」ってなんなんですか?
その名の通り1988年って意味です。ちなみにこれもエラリー・クイーンの『Yの悲劇』に影響を受けています。有栖川有栖のデビュー作です。
へー、本当にエラリー・クイーン好きなんですね。ペンネームはどこから取ったんだろ。
有栖川有栖は同志社大学卒なんですが、大学一年の頃に通学途中で見た「有栖川宮廷跡」の碑だったらしいですよ。
京都御苑のところのやつか!どおりでなんか見たことあると思ったんだ。
ちなみに『月光ゲーム』は元々、1987年の江戸川乱歩賞に応募した作品だったんですが、落選したんですね。
それを知った鮎川哲也が推薦して、大幅に改稿されて『鮎川哲也と十三の謎』の一冊に選ばれたのが『月光ゲーム Yの悲劇’88』というわけです。
正直なところ、『月光ゲーム Yの悲劇’88』は、推理小説として読むより青春小説として読む方が面白い内容かもしれませんね。
アリスという主人公は理代という女性が好きになるんですが、もしかしたら好きな子が犯人なんじゃないか?みたいな感じで進んでいくので甘酸っぱいんですね。
しかし、まぁ、その女性とはうまく行かずに終わります。そして二作目の『孤島パズル』で今シリーズのヒロインであるマリアが登場してくるんですね。
お、マリオで言えばデイジー姫で始まって、ピーチ姫がやっと出てきたって感じですね!?
ちょっと何言っているかわからないです。
どうしてわからないんだよ!…ってサンドウィッチマンさんのネタじゃないですか。
冗談はさておき、アリスが大学二年生になった頃にマリアが推理小説研究会に加わりました。専務令嬢のマリアですが、名前の由来を少し引用しましょう。
彼女の誕生日が聖母マリアと同じ九月八日だというのが表向きの理由。有馬麻里亜というフルネームが回文、すなわち上から読んでも下から読んでも同じで愉快だというのが裏の理由らしい。マリアも洒落好きの祖父を持ったのが災難だった。
P.16
引用:『孤島パズル』有栖川有栖著(東京創元社)
そうです。有馬鉄之助というおじいちゃんが事業家で一生涯を忙しく生きた人だったけれど、唯一の楽しみがパズルだったんですね。
パズルが趣味。忙しい人がゆっくり時間をかけるのが趣味ってのはいいですね。
それで脳梗塞で突然亡くなった後に、ダイヤを隠したという宝の地図が出てきたのです。その宝の地図がパズル仕掛けで謎が解けなくて、遺族一同大慌て。
ほほう。そこで推理小説研究会のみんなでその謎を解いてみようっていう流れですね!?
この宝探しがまぁ、孤島で行われて、見事にクローズドサークルの出来上がりなわけですけど、遺族一同がダイヤモンドを求めて争うわけですから、当然犯人も被害者もマリアの親族ということになるんですね。
うわー…。よくありがちな設定ですけど、ヒロインがそれに巻き込まれるってあんまり聞かないですね。
なのでマリアは相当ショックを受けます。そしてやっと今回の『双頭の悪魔』の冒頭にやってくるわけです。
マリアは傷ついた心を癒すために自分の二十歳の誕生日をひとりで過ごすことにするのです。
聖母マリアと同じ誕生日って言ってましたね。たしかマリア様は9月8日でしたっけ。
君、すごいな!普通、聖母マリアの誕生日なんて覚えていないですよ(笑)
それでマリアは誕生日の数日前から旅行に出かけます。どうやら噂では高知県の北、徳島県との県境に近いあたり。険しい四国山地の奥深いところ、夏森という村のそのまた奥の集落にマリアは行ったらしいのです。
いやー、実在はしないですね。架空の村です。でも時々実在する地名も出てくるのですよ。大歩危小歩危とかね。
お。大歩危峡って書いてありますね。
吉野川の激流によって作られた渓谷なんだそうです。青緑色の水がすごくきれいだったんですよ。ラフティングとかしている人いましたね。
激流だから出来るボートのレジャーですね。今回の舞台も激流の川が、いい具合にクローズドサークルを作るんですよ。
まずね、マリアは夏森村に住む中学の同級生を訪ねたのですが、運悪く会えなかったんですね。
それでマリアは夏森村のさらに山奥にある集落へ足を向けるのです。そこには木更村という村がありました。
いえ、これも有栖川有栖の創作の村ですね。でも特徴があって、そこは芸術の創造のために存在して、部外者の立ち入りを固く禁じていたのです。
木更勝義という人物が廃村を買い取って出来た村です。芸術家たちの駆け込み寺と言われていました。
徳島にも芸術家たちが集まる町ってありましたね。たしか神山町かな。神山アーティスト・イン・レジデンスっていうプロジェクトだった気が。それの村版って感じかな。
あー、そういうコンセプトのもっともっと閉鎖的な感じってイメージで大丈夫です。
その木更村から出た芸術家が徐々に文学賞を取ったり、海外で評価され始めてメディアも注目し始めたのですが、あくまでもコンセプトは芸術の創造のために存在しているため取材は拒否してたんです。
あーなるほど。メディアにさらされると芸術家も創作に集中できなくなりそうですもんね。
でもやっぱりそういうのって、リーダーがいるからいるから保っていられるのですが、木更勝義が亡くなっちゃうんですよね。
推理小説ってそういう設定多いですね。創始者が亡くなったことで事件が起きるみたいな。
今回も例には漏れません。木更勝義が亡くなった事で木更村に住んでいた人たちの意見は二分化するのです。
二分化ってことは…。閉鎖的な村として存在し続けるか、メディアを呼んで観光地かするか?って感じですか?
え?君、この小説もう読みました?まさにその通りです。木更勝義が亡くなった事で経済的なパトロンがいなくなった木更村は経済難に陥るんですね。
やっぱりね!僕も最近推理小説の流れってものがわかってきましたよ!それで意見がわかれて、殺人が起きるのでしょう?
おっと、まだまだ先を走らないように。木更勝義の意志を継いで閉鎖的な村を続けたいもの、村維持のためにはある程度の観光地化させて収入を得ないとやっていけないと考えるもの、みたいに意見が分かれ始めるんですね。
そうですそうです。しかし、マリアは芸術家でもなんでもありませんから、即座に追い返されてしまうのです。
あれ?じゃあマリアはなぜ帰ってこないんですか?
マリアはケガをしちゃうんですね。しかも高熱まで出して。そしてだんだん帰る気力を失ってしまうのです。
マリアはその村に住む人たちの中に、見たことがある人を発見します。元アイドルの千原由衣です。しかしアイドル時代に比べて体重はマリアの倍ほどに膨れ上がっている姿でした。
彼女は過食症のリハビリテーションでここにいるのでした。まぁ、そうなるとそういうのを面白おかしく囃し立てる人もいるでしょう?
そうそう。そういう雑誌社で働いているカメラマンが運悪く、アリスたちがマリアを迎えに行った日に木更村に現れてしまったのです。
千原由衣の事をスパ抜きに来たカメラマンの仲間だと勘違いされた推理小説研究会の一同は、マリアに会うことも出来ず追い返されてしまいます。
それで推理小説研究会の一同は、強硬手段に出ます。住人の目がないときに侵入を試みるのです。あ、ちなみに推理小説研究会の一同は江神という名探偵役と主人公のアリス、それと望月、織田の4人です。
推理小説研究会の一同の掛け合いがなかなか面白い作品で、前回の『孤島パズル』はほとんど望月と織田は出てこなかったんですが、今回は大活躍で作者のキャラ愛が高まってましたね。
…となるとやっぱり『月光ゲーム』と『孤島パズル』は読んだ方が良いんですか?
いや、読まなくて大丈夫だと思いますよ。もちろん、キャラものとして見るとシリーズで追っていった方が良いのかもしれませんが、今作だけ読んでも充分楽しめる内容なので。
それでですね、推理小説研究会の一同は、雨の中マリア奪還を図るのですが、部長の江神だけがマリアと接触出来て、そのほかのメンバー3人はその場を離れることになるんですね。
ほほう。ヒロインになかなか会えない主人公的な感じかな?
そしてですね、大雨の濁流により、木更村と夏森村をつないでいた橋が壊れてしまうのです。
橋!?もしかして祖谷のかずら橋みたいな感じかな?僕、この間歩いてきましたよ。
お、イメージとしてはぴったりですね。そうです。こういう感じの橋で村同士がつながれていたんですね。
こういう橋で木更村と夏森村が繋がれていて、それが大雨の濁流で崩壊しちゃうんですね?
そうです。それで木更村には江神とマリア、夏森村には望月と織田とアリスという感じでバラバラにされてしまうんですね。
もう君この小説読んだ事あるでしょう!?その通りですよ!「双頭」の悪魔というぐらいですからね。それぞれの村で殺人が起きるんですね。
木更村の被害者は現在の当主・木更菊乃の婚約者、小野さんです。
そうですね。木更村を買った木更勝義の奥さんです。んで木更勝義が亡くなって当主になり、木更村が出来た時から生え抜きでいる画家の小野さんと再婚するんです。15歳差の年の差婚なんですが。
小野さんからしてみれば、権力を一気に手に入れられる結婚だったわけですね。
ええ。それでまぁ、小野さんは木更村を観光地推進派だったんですね。んでその木更菊乃もその意見に寄り添っていた。そんな中、小野さんは殺されます。
単純に考えると、木更村を閉鎖的な村なままにしておきたい人の仕業ですよね。
そーなりますね。一方、夏森村で殺されたのは、先ほどスパ抜きをしようとしていたカメラマンです。
ほほう。これも単純に考えて恨みを買って殺されたか、木更村を閉鎖的な村なままにしておきたい人の仕業って事になりますね。
そうなんです。この推理小説はね、ぶっちゃけ動機は単純なんです。動機はなんだったんです?みたいな推理小説もありますけど、そういう感じではない。
ふむふむ。そしてそれは誰にでも当てはまる動機だから、動機で犯人を絞る事は出来ないと。
ですです。この小説の中には読者への挑戦状が3つ挿入されているという話はしましたが、ぶっちゃけ推理というよりも消去法で答えにたどり着けって感じの内容ですね。
あっと驚くトリックがないって事です。こんなトリックで殺人が可能になったとかよりも、今までお話した内容で一人だけ犯行が可能だった人がいる。それは誰でしょう?っていうね。
なるほどねー。まさに正々堂々とした読者への挑戦状ってわけですね。
なのでね、正直な話、この小説をみんなにオススメする事は難しいのです。推理小説ってアッと驚くどんでん返しとかが好きで読む人いるでしょう?
そういう人たちにとってはこの小説はそれほど面白くないかと思います。
でも犯人を推測しながら読む人にとってはたまらなく楽しい小説になりますね。なぜなら犯人が誰なのかを3回も楽しめるわけですから。
いやー、それはどうでしょうね。言えることと言えば1つ目の挑戦状で「木更村で起きた殺人の犯人は誰か?」という事、2つ目の挑戦状で「夏森村で起きた殺人の犯人は誰か?」という事を聞かれます。
この小説はとにかく3つの挑戦状が楽しめるかどうかですね。
考えてみれば、推理小説には名探偵役がいるわけじゃないですか。それが江神という推理小説研究会の部長なんですよね?木更村でマリアと一緒にいる。
それなら、夏森村での探偵役はどうなるんですか?主人公のアリスって助手なんでしょう?
あー、それに関してはね、望月と織田とアリスが三人であれこれ意見を出しながら、答えを導いていく感じですね。この三人のやり取りは非常に面白い。
名探偵がいなくても事件解決出来ちゃうんですか?
そこらへんは読んでもらって楽しんでください。三人寄れば文殊の知恵ともいうじゃないですか。
私がひとつだけ気になったのは「月光ゲーム」と「孤島パズル」で関西弁強めだったアリスが今作ではそれほど方言で話さなくなったことです。
あー、長期連載すると最初とキャラが全然違う事ってよくありますからね!そこはご了承くださいってことで!
批評を終えて
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「サルトル・チェーホフ・ツルゲーネフ!」
「長期連載すると最初とキャラが全然違う事ってよくありますからね!」…って、あれ?僕は一体何を…。
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!なにが「キャラが全然違う」だよ。テコ入れって言うんだよ、それ!
え?あれれ?読書エフスキー先生は?
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ?!!
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ?
ちょっ、ちょっと待って?!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
…あのすいません、双頭の悪魔について聞きたいんですが。
(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!有栖川有栖の1992年の作品でございますね。おまかせくださいませ!
?あとがき
いつもより少しだけ自信を持って『双頭の悪魔』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。名言や気に入った表現の引用
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『双頭の悪魔』の言葉たちです。善悪は別として。
色んな人と色んな話をして、私というがら空きの本棚に一冊ずつ本が並んでいくような、そんな気がするのです。
P.37
九月に久しぶりに会ってその後、五回会いましたけれど、会うたびにきれいになっていくみたいで。――だから私はあまり心配していないんです。女の子がきれいになっていくのに悪い意味ってないと思うからです
P.55
にやり、と音がしそうなねっとりとした笑みを浮かべた。苦手な人も多いだろうが、私は、彼のこの笑みが嫌いではない。その表情は――うまく言えないのだけれど――とても自由なものを私に感じさせてくれた。多分、人間はこんなふうに笑ってもいいのだ。
P.63
私は雨が好きだ。霧しぶくような氷雨。しとしとと降り続く六月の雨。夏の日に駆け抜ける夕立ち。罪人を打擲するような夜の驟雨。目覚めの窓辺で聴く雨だれ。頭の上で雨を弾いて鳴る傘。庭で土がたてる柔らかな呟き。雷鳴。霞む遠い山。波紋が踊る水溜まり。洗われる花。濡れて光る街路。そんなどれもが好きだ。でも、一番好きなのは、雨の最後の一滴が空から落ちた後に訪れるもの――雨上がりだった。
そう、雨が好きなのは、それがいつかやむと判っているからなのだ。
P.78
人間って、知らないうちに人を食べていることがあるんですね
P.98
玩具箱をひっくり返したようなこの小説なら、ぐちゃぐちゃになりかけた今夜の頭中をシャワーしてくれるだろう。混乱をもって混乱を制す、だ。
P.99
僕たちは口々に見えない相手に呪詛の言葉を浴びせた。相手がこの場にいれば、罵声の弾丸でボニーとクライドになっただろう。
P.132
居候は主の許可がなくては遠慮もできない。
P.177
何てお気の毒な、と思おうとしているのに、私はまだ実感が湧かない。放心してしまうと、人は冷静なのだ。
P.211
笑えよ。詩人なんかにごまかされるな。詩に欠けてるのは笑いだ。自分を笑えないような奴ばかりが詩を書きたがる。糞溜めに放り込んだ上で、頭を踏みつけて沈めてやりたくなるような詩人どもにごまかされるな。
PP.222-223
彼は直接口にしていなかったが、報道の自由、言論の自由という言葉がぽっかりと頭に浮かんだ。弱い者しか向かっていけない者がこの言葉を口にするのを聞く時、僕は心底不快になる。そんな輩は、狂犬のような右翼が寝室のドアを蹴破りにきた時に自分はどう対処するだろうか、ぐらいのことも想像せずに、へらへらと自由を口にするのだ。
P.231
望月は納豆と格闘していた。いつもなら食べない、彼曰く『悪魔の朝食』を土佐の山奥で思いがけず昼食に出されて苦労している。
P.247
過食症や拒食症やいう摂食障害は女性に多い病気です。破壊衝動が自分の容姿を醜くしてやれという形で現れるというがは、それだけ女性にとって容姿というものが重大な意味を持つということでしょうなぁ。痛ましいような気がします。
P.249
自然が彫刻品を提供してくれたので、私は建築家、そして石工にならねばならぬと思った
P.282
人は見かけによらない、という言葉はその人の技倆だけを指すものではないのだ。きっと、抱く夢想の大きさをも含んだ警句に違いない。
P.283
運命なんて犬と同じだ。逃げる者に襲いかかってくる。
P.342
あの人にはかなわない、という先輩を持つことは楽しいことであり、また幸福なことでもある。
P.399
太っていて悪いことなんかない。君は一番体重が多い時でも充分チャーミングだった。問題は心にある。ライオンに襲われた駝鳥が砂に顔を埋めて危険はない、と自分を偽るようなことをしても食い殺されるだけだ。体重計の目盛りじゃなくて、その駝鳥コンプレックスが君を不幸にしているんだ。現実が少々重いなら、歌えばいいじゃないか。君の歌なら悪魔でも聞き惚れる。そうして恐怖を払えば知恵も湧いてくる。むしゃむしゃ食べて現実から逃げるのなんかやめてくれ。お願いだ
P.418
庭に死体を埋めた人間はしばしばその上に花を植えようとする。
P.501
家出は癖になることがある
P.505
人が秘密を交換し合うには何か非日常的な時間が必要なのかもしれない。
P.509
核戦争で人類が全滅しても、俺は最後の一人になって生き残るつもりやから
P.514
子供の頃見えていたものが大人になると見えなくなる。そんな感傷的な言い回しがありますが、それには賛成できない。子供が見る夢など他愛のないものばかりですよ。夢見る力などありません。深い夢に酔えるのは大人です。そして、子供の日に見た朧な夢を大人は一生忘れないんですよ。
P.529
読者は糸を手繰るだけでは迷宮を抜け出すことは叶わないだろう。脱出の手前で行く手に立ちはだかる最後の岩盤を、イマジネーションの力で爆破していただきたい。
P.634
神様だの運命だのに操られるだけで充分なんや、人間は
P.672
引用:『双頭の悪魔』有栖川有栖著(東京創元社)
双頭の悪魔を読みながら浮かんだ作品
著者:エラリイ・クイーン
翻訳:宇野利泰
出版:早川書房
ページ数:497ページ
おや?エラリー・クイーンの『Yの悲劇』ですか。
作家、有栖川有栖が創元推理文庫40周年の時に
創元社から出ている推理文庫のベスト5を選べと言われたときに、有栖川有栖はエラリー・クイーンの『
Yの悲劇』を挙げていました。残念ながら有栖川有栖があげた文庫は新訳出版に伴って廃版になってしまいましたが、早川書房が電子書籍で出してくれているのでそちらの方を。ちなみに1932年の作品で『双頭の悪魔』から60年という還暦回っちゃうぐらい前の作品ですが、
推理小説のド定番とも呼ばれる古典的名作です。
レビューまとめ
ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。最近ネコと一緒に昼寝する事にハマっています。
さてさて『双頭の悪魔』の評価ですが、有栖川有栖はドハマりする感じの作家ではなかったですが、一つの娯楽作品として『双頭の悪魔』は読んでいて面白かったです。
特に旅先で、舞台となっている場所の近くで読んでいるという体験が格別なものでした。
ただ本格派の推理小説として読むのであれば、やっぱり同時代の作家で言えば綾辻行人とかの方が面白いかな…。
ちなみに綾辻行人、法月綸太郎、有栖川有栖などを代表する新本格派は、京都大学推理小説研究会出身が多いです。有栖川有栖は同志社大学推理小説研究会なんですけどね。
そんな影響もあって、この作品は大学の推理小説研究会のメンバーが主要キャラです。
キャラ物として読むとかなりいい感じのキャラが多いので学生アリスシリーズとして、シリーズ化されているのも納得いきます。
それにしても有栖川有栖はシリーズ物が多いです。今回の学生アリスシリーズをはじめとして、作家アリスシリーズ、ソラシリーズ、濱地健三郎シリーズなどなど。
ここからわかるのは、有栖川有栖はある程度キャラ愛を持って作品を作っていくタイプだという事です。
なので、そのキャラがピシャっとあなたにハマったのであれば、有栖川有栖は沢山作品を出している人なので素晴らしい読書時間を提供してくれる事になるでしょう。
もし『双頭の悪魔』が面白かったら、ぜひ振り返って『月光ゲーム Yの悲劇’88』と『孤島パズル』を読んでみてくださいませ。すべてに共通しているのは、誰がその犯罪をすることが可能だったか?という謎解きです。
個人的には三つの中ではやっぱり『双頭の悪魔』が一番面白かったかな。
ではでは、そんな感じで、『双頭の悪魔』でした。
ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございました!
面白かった!と思ったあなたは是非別の記事も読んでいただけると嬉しいです。
最後にこの本の点数は…
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双頭の悪魔 - 感想・書評
著者:有栖川有栖
出版:東京創元社
ページ数:640ページ
双頭の悪魔
- 読みやすさ - 87%
- 為になる - 70%
- 何度も読みたい - 72%
- 面白さ - 83%
- 心揺さぶる - 63%
75%
読書感想文
有栖川有栖という作家を知るにはまずはこの作品から読むのが最適かと思います。「誰がこの犯罪が可能だったか」ただそれだけをひたすら考えて読み続けるストイックな読者に3つも挑戦状が叩きつけられるので、脳みそに汗かきながら読書をするなら最適な推理小説でしょう。あと大学生ものが好きな人にもオススメ。大学のモラトリアム期間にこんな仲間がいたなら楽しそうだな…っていう青春を感じて読める作品です。