幻影の書_ポール・オースター

『幻影の書』を読んで一度はポール・オースターを疑う事に…

幻影の書 - 書籍情報
  • 著者:ポール・オースター
  • 翻訳者:柴田元幸
  • 出版社:新潮社
  • 作品刊行日:2002/09/01
  • 出版年月日:2011/10/01
  • ページ数:429
  • ISBN-10:4102451145

BOOK REVIEWS

幻影の書というポール・オースターの作品はアメリカ本国では最高傑作と称されているらしいのです。

えー、それがどうしたのかと言いますと、前回『ムーン・パレス』を読んで「ポール・オースター、やばい!大好きかもしれない!!」と電撃が走る程感銘を受けた僕は、次に読む彼の本を探していました。

本来ならば好きになった作家は作品発表順に全作品を読んでいくのですが、ポール・オースターは活動期間が40年以上もある作家で作品が非常に多い

これはかいつまんで行ったほうが良いなと思った矢先、その表紙の美しさと魅力的なタイトル、そして『最高傑作』という言葉に惹かれて幻影の書を手にとったわけですよ!!

だがしかし。

あれほど読みやすかった『ムーン・パレス』とは対照的に全く先に進まない。マジでこれ同じ作家なのか!?と疑ってしまうほど読むのに時間がかかった。

ぶっちゃけ、429ページある作品の400ページぐらいまで読んで、最高傑作という言葉に首をかしげることしか出来ませんでした。駄作だろ、これ…、と。

そんな印象最悪な『幻影の書』だったのですが、諦めずに最後まで読んでみると…

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小説『幻影の書』 – ポール・オースター・あらすじ

幻影の書
4.4

著者:ポール・オースター
翻訳:柴田元幸
出版:新潮社
ページ数:429

誰もが彼のことを死んだものと思っていた。無声映画の俳優にして監督として活躍したヘクター・マン。謎の失踪から数十年。主人公の元にヘクターの妻を名乗る者から手紙が届く。絶望の淵にあった主人公を笑わせたヘクターの映画。そのヘクターが生きていて、会いに来てほしいというのだ。この手紙は本当なのか、それとも単なるイタズラか。戸惑う主人公の前に顔にあざがある女性が現れ、拳銃を突きつけた…

読書エフスキー3世 -幻影の書篇-

文豪型レビューロボ読書エフスキー3世-幻影の書
前回までの読書エフスキーは

あらすじ
書生は困っていた。「The Book of Illusions!カッコ良すぎ!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。『幻影の書』のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…

幻影の書 -内容紹介-

無料読書案内の書生
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大変です!先生!ポール・オースターの『幻影の書』の事を聞かれてしまいました!『幻影の書』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
“小説の映画”デスナ。
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…と、言いますと?正直な所『幻影の書』は面白い本なのでしょうか?

 誰もが彼のことを死んだものと思っていた。

引用:『幻影の書』ポール・オースター著, 柴田元幸翻訳(新潮社)

読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
コンナ一文カラ始マル“ポール・オースター”ノ2002年の長編小説デス。読メバワカリマス。
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えーっと、それでは困るのです。読もうかどうか迷っているみたいですので。ちょっとだけでも先生なりのご意見を聞かせていただきたいのですが。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
読む前にレビューを読むと変な先入観が生マレテシマイマスノデ…
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ええい、それは百も承知の上!先生、失礼!(ポチッと)
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
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うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
幻影の書_批評

幻影の書 -解説-

読書エフスキー3世
読書エフスキー
さて今回は『幻影の書』を扱っていくわけですが…
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書生
前回に引き続き、ポール・オースターの作品ですね!!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
いやー、今回の作品は私には難しかった…。
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書生
と、言いますと?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
これは私の読書の幅が狭いことを露呈しまうことではあるのですが、情景描写がメインの作品は苦手なのです。
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書生
情景描写?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
例えば昔の作家で言えば谷崎潤一郎は好きな作家なのですが、『細雪』は非常に時間がかかりました。読書スピードが上がらないのです。それは文字から頭の中に映像を創り出すのが遅いからでありまして…
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書生
あー、谷崎潤一郎と言えば耽美派のイメージ強いですけど、非常に綺麗な風景を文字で表現しますよね。個人的には『痴人の愛』よりも『細雪』の方が好きです。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
で、ですね、今回の『幻影の書』という作品は映画を扱った小説なのです。映画のシーンなどを事細かに言葉で表現している
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書生
ほほう。映画のノベライズとは違うんですか?
読書エフスキー3世
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映画のノベライズや戯曲化とはちょっと違います。今回ポール・オースターがやっているのは、主人公が見ている側で映画を描写するのです。
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書生
見ている側で…。うーむ。確かに映画のノベライズって別に映画館で見ている人が書いたような本ではなく、あくまでも主人公目線だったり、第三者の神の手によって書かれているものが多いですよね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
それをこの作品では、主人公が観ている映画をスケッチブックに書くように風景から登場人物から事細かに説明してくれます。それを可能にするのはポール・オースターの素晴らしき力量だと思うのですが…。
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書生
先生的には苦手なわけですね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
そうなのです。なんかすいません。私の読書能力が足らないばかりに。
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書生
まぁ確かに小説ってストーリーというか、時間軸が根底に流れているから読んでいてちょっとわからない部分があっても頭の中で補完出来るのであって、一枚の絵を見て説明された時間軸のない文章のようなものは頭の中で想像しにくいですよね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
なのでこの小説はスピードを上げて読める所と、非常に時間がかかる所が混在していて、私的にはなかなか骨のある小説になりました。
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書生
ところで、今回の『幻影の書』って一体どんな話なんですか?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
前回読んだムーン・パレスは孤独と絶望をテーマに扱っていましたよね。今回も絶望がテーマとして流れていると思います。主人公は大学で教鞭を執る教授です。たまーに何か物を書いたりして出版するような。
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書生
絶望がテーマですか。それなら前回同様、自分を投影出来る作品なんじゃないですか?先生言っていたじゃないですか。『ムーン・パレス』はまるで自分のことを書いているようだって。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
今回の主人公はなぜ絶望するのかと言えば、自分以外の家族(奥さんと子供2人)が飛行機事故で亡くなってしまうのです。確かにこの状況だけを見てみると私も似たような経験をしたので自己投影出来ると思っていました。
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書生
ひ、飛行機事故…。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ですが、今回はそれが難しかった。その理由は後で述べるとして物語のあらすじを簡単に説明していきましょう。家族を失った主人公は見事にぶっ壊れていきます。仕事を休み、酒に溺れ、世界に絶望していく。
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書生
前回の主人公に非常によく似ていますね。前回は大学生でホームレスになっていきましたが…。
読書エフスキー3世
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今回の主人公の名前はデイヴィッド・ジンマーです。ムーン・パレスの主人公のホームレス生活を救ってくれた友人の名前もジンマーでしたね。さらに飛行機事故で亡くなった息子の名前はマーコ。
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あ。ムーン・パレスの主人公の名前じゃないですか!
読書エフスキー3世
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ムーン・パレスを読んだ限りでは、今回の主人公とジンマーの家族構成とか経歴が似ていますので、ムーン・パレスのその後という見方も出来なくもないですね。ジンマーは自分の息子に親友の名前をつけたと。
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書生
そういう別作品の登場人物が出てくるの嬉しいですよね。伊坂幸太郎の黒澤とか漫画で言えばCLAMPの作品とか矢沢あいのご近所物語Paradise Kissの関係みたいな。
読書エフスキー3世
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まぁ、そのジンマーは不運にもマーコを含め家族全員を失ってしまうのですが、ある絶望の中から自分の生の部分を見つけるのです。それが喜劇映画でした。ある喜劇映画を見て自分が笑っている事に気がつく。そしてふとした思いつきから一人の喜劇役者の作品をすべて見てみようと思いつく。
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書生
ほほう。それが冒頭に書いてあった“誰もが彼のことを死んだものと思っていた。”の「彼」なわけですか。
読書エフスキー3世
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そうです。彼の名前はヘクター・マン。サイレント映画にて活躍し、監督もつとめていた役者。しかしそれはもう数十年も前の事。彼はサイレント映画の終焉と共に忽然と姿を消した。
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無声映画の時代ですか。チャップリンとかハロルド・ロイド、バスター・キートンなどが有名ですね。
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ヘクターは彼らほど有名ではなかったけれども、ジンマーの心を打つ何かを持っていた。そして最近気になるニュースもあった。失われたと思われていたヘクターの作品フィルムが何者かによって世界各地の映画アーカイブに寄贈されたというのです。
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ほほう。昔の映画ですからね。保存されている事自体が貴重ですよね。
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仕事に復帰する気力もなかったジンマーですが、何かをやっていなければ絶望に呑み込まれてしまう。お金に関しては保険金やら補償金がたっぷり入っていましたから、ヘクター・マンの映画を求めて旅行に出かけることにしたのです。
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確かに落ち込んでいる時は無理にでも自分を忙しくしていなければ、思考の闇に潰されますよね。
読書エフスキー3世
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ただまぁ、そういうアーカイブを見せてもらう為には建前が必要です。貴重なフィルムですからね。見せて下さい、はいどうぞ。という事にはいかなかった。そこでジンマーは自分の立場を利用して、ヘクター・マン研究の書物を出すということにしたのです。
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立場?
読書エフスキー3世
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ジンマーは大学の教授なので研究して書物を出したいと言えば、向こうも納得しやすい口実になるわけです。
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なるほど。
読書エフスキー3世
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その口実のために、いざメモを撮りながら映画を観てみるとこれが実に時間を食う作業。本来ならばヘクター・マンの映画を見て回る旅行で1週間から2週間ぐらいで終えるはずでしたが、映画を見るのに数ヶ月、本を書き上げるのに9ヶ月と見事に時間を消費する事が出来たのです。
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意識を1年間近く、絶望から離れた所に持っていけたと。
読書エフスキー3世
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まぁ、この映画の描写などが細かく描かれているので、私としては非常に苦手な部分ではあったのですが。
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なるほど。観たこともない映画の描写ですからね。自分も昔、グレート・ギャツビーというF・スコット・フィッツジェラルドの小説を読んだときに車のシーンが何度読んでもわからなくて、映画を観て始めてその内容が頭に入ってきたって事がありましたよ。映像の情報量って改めてすごいなと感心しました。
読書エフスキー3世
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映像はイメージを固定化してくれますから、内容把握に向いていますよね。まぁ、文字だからこそ出来る事も無限にあるわけですから、どちらが優れているという事ではないとは思いますが。ただ、私はどうも情景描写は苦手です。しかも無声映画の描写ですからね。登場人物の会話などもないわけですよ。
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そう考えてみると無声映画を小説の中で描写するポール・オースターってすごいですね。
読書エフスキー3世
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ええ。まだ2冊目ですけど、ポール・オースターってすごい作家なんだなぁと思い知らされました。
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書生
あ、それでヘクターの研究書を書きあげた後ジンマーはどうしたんですか?まだ物語が発展していない気がするんですが。
読書エフスキー3世
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どうやら研究書というのは出版に時間がかかるらしいんですよね。お偉いさんから許可もらったり、専門家のチェックが入ったりで。なのでジンマーの書いた本が世に出た時にはすでにジンマーの意識は他のものに移っていました。
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書生
へー。本って書いてすぐに出版できるもんだと思っていました。
読書エフスキー3世
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研究所の出版の依頼を終えたあと、ジンマーは友人からの紹介で名著の翻訳の仕事を受けました。これもまた単純作業ながらも非常に根気と時間が必要な仕事です。
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書生
ふむ。まだまだ職場復帰は考えていないんですね。大学で授業をするとなると人前に立たねばなりませんし。そんなに簡単に人の心は絶望から抜け出せはしない。
読書エフスキー3世
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ジンマーは部屋にこもりコツコツとその作業を続けていました。そんな時です。ヘクター・マンの奥さんという方から手紙が届くのです。ヘクターに会いに来てくれないか?と。
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書生
おお!!ついに物語が進展しますね!
読書エフスキー3世
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ジンマーとしては信じられない手紙でした。だって世間的にはヘクターは死んでいることになっているのです。数十年前に。結婚だってしていなかった。
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謎の失踪を遂げたんですものね。
読書エフスキー3世
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無声映画の衰退と共にヘクターの所属していた映画会社の経営者が首を吊りました。それと同時期にヘクターは失踪していましたから、何らかの事件に巻き込まれたか、経営者関連の仲間内から消されたなんて言われていたのです。
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書生
ちょっと推理小説っぽくなってきましたね!
読書エフスキー3世
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『幻影の書』は推理小説というジャンルにわけていい内容だと思います。一人の男の失踪を巡って秘密を解き明かしていくような。松本清張の『砂の器』とか、宮部みゆきの『火車』のような。
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書生
おお!両方読みましたよ。どちらも読めば読むほど深い闇に落ちていくような暗い内容でしたが、面白くてページめくりが止まらなかったのを覚えています。失踪ものでしたね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
まぁ、あの二つは主人公が刑事でしたし、絶望していたのは失踪していた側の人間ですからね。ある程度主人公目線でも客観的に読めたと思います。ですが、今回の主人公は絶望真っ只中です。ヘクターに会いに来てと言われても会いに行く理由がないのです。
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書生
言われてみれば確かにそうです。失踪の秘密を知る事が出来るっていうのはあるかもしれませんが。
読書エフスキー3世
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ジンマーにしてみれば、ヘクターの本を書いた時の情熱は薄れていますし、そもそも信憑性が全く無い手紙なのです。誰かのイタズラだと片付けて翻訳の仕事に没頭していた方が気が紛れます。
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書生
そーですねぇ…。
読書エフスキー3世
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何度かヘクターの夫人を名乗る人物に返事の手紙を書きましたが、ある時ぷつりと返信が途絶えます。なーんだやっぱりイタズラだったんだなと思い始めた頃、一人の女性がジンマーの家を訪ねてきます。そして拳銃をジンマーに向けました。
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書生
ええええ!!!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
という事で、ここらへんであらすじ紹介おしまい。
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書生
ええええ!?!?
読書エフスキー3世
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まぁ、この女性が誰だとかヘクターは一体何だったのかとか、そういうのは読んでもらってからのお楽しみという事で。
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書生
ぐぬぬ。毎回気になる所で寸止めされて困る!!
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
正直な感想を言いますとね、ムーン・パレスを気に入った人に幻影の書を勧めるか?と言われたら、答えはノーです。
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書生
あれ?でもジンマーという名前も使われていますし、絶望からの脱出みたいなテーマも共通していそうですが、駄目なんですか?
読書エフスキー3世
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ムーン・パレスは青春小説でした。主人公に共感を持てましたし、その他の2人の自叙伝的なものも非常に魅力に溢れた内容でした。そして偶然の連続という不思議な体験も本筋に漂っていましたよね。
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書生
あの偶然の連続でも必然だと感じられるある種の心地よさを携えた文章で、読んでいて胸を締め付けられつつも勇気をもらえるようなそんな作品でした。
読書エフスキー3世
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それに対して今回は偶然というものはほとんど存在しません。時折頭を出してくる偶然を無理くり必然のように感じている主人公は描かれていますが、それほど偶然に必要性を感じません。どちらかと言えば、何かが起きそうなのにずっと何も起きない。そんな展開なのです。
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書生
え?でも手紙は届きますし、拳銃を突きつけられるじゃないですか。
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なんというか物事の意外性がないんですよね。そこには前に見たことがある映画をもう一度観ているような予め用意されたストーリーをなぞっているような。意外性はあえて排除されたような書き方がされています。展開していくのは、前もって主人公によって紹介された内容だけ。
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ふむ…。難しいですねぇ…。
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それが400ページほど続きます。物語の9.5割ほどがその状態で続くのです。ですが、そこまで続けていた予定調和の内容は最後の0.5割、20ページ程のラストのために存在していた助走だったのだと知り、最後の大ジャンプにはビックリしました。
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書生
大どんでん返しがあるわけですね!ムーン・パレスはそういう感じの小説ではなかったですよね。
読書エフスキー3世
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そう。「まさに駄作。これは新しい試みにチャレンジした駄作だったのだ」と思い込んだ瞬間、最後の最後に心をガシッと持っていかれました。我慢して情景描写を読み続けて良かった。そう思える作品でした。
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書生
ほー!!という事はこの小説はグッドエンディングを迎える作品なんですね!?
読書エフスキー3世
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…いや、それはどうかわかりません。人それぞれの感じ方があるでしょうし。
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書生
ええ…!?いやいや、グッドエンディングかバッドエンディングかは、誰が見てもわかるでしょう?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
なんていうんですかね。スタートが主人公の絶望から始まっていますから、そこからの立ち直りで言えばグッドエンディングになるんじゃないでしょうか。
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書生
家族の事故から立ち直れたんですね。それならグッドエンディングじゃないですか。誰がどう見ても。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
まぁ、そういうことにしておきましょうか。私としては最後の最後のページに辿り着くまでは、なんて後味の悪い小説だと思っていたんですけどね。でも最後は救いの方向に持っていってくれて救われた。そんな感じです。
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うーむ。早く読みたくなってきました。ところで自己投影出来ない理由はなんなんですか?
読書エフスキー3世
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この小説の登場人物は全体的にあまり魅力的ではないんですよ。キャラクターに徹底しているというか、人間味が薄いというか。それがあるからこの作品はくっきりとストーリーが立ってはいるんですが。
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書生
人間味の薄さ…ですか。
読書エフスキー3世
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例えば絶望した人間は本来は「このままじゃイケない。このままじゃイケないのはわかっているのだけれど、どうしても抜け出せない」というような絶望の中にも少しだけの前向きさみたいな葛藤が備わっていると思うのです。
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書生
ムーン・パレスのマーコはそんな感じがしましたね。前進しては後退し、三歩進んで二歩下がる的な。でもちょっとずつでも前進する的な。
読書エフスキー3世
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でも今回のジンマーはひたすら絶望なのです。とにかく物語を通してずっと絶望。最後の最後の最後でやっとちょっとだけ前進したかなと見えたのが救いなのですが。なので、読み進めていく上でどうにも主人公には感情移入がしにくい。感情を混入出来る隙間がないのです。
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書生
でもそれは作品として完成されているという事なのではないでしょうか?必ずしも読者が入る隙間があることが良いというわけでもないのでは?
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
ええ。確かにそうですね。なので私もこの作品を否定しているわけではありません。これを最高傑作とするかどうかは別として、ムーン・パレスとは別の形の作品として非常に優れていると思います。ポール・オースターの文章力、描写力の高さに驚かされる作品でした。
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書生
人間の好みは千差万別。何でもかんでも順位をつけなければいけないというわけでもありませんよね。まぁ、みんな一等賞っていうのもどうかとは思いますが。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
私はこの小説を読んで、小説の評価というのは最後のページまで読んでみないことにはわからないものだなということを教えてもらいました。これからは出来る限り、損切りした作品の評価を行うことを控えたいと思います。
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書生
あー、たまにありますね。アニメのレビューなどで。3話までしか観ていないけれど、最悪でしたみたいなやつ。もちろんその作品は導入のつかみで失敗しているのかもしれませんが、それが全体の評価にするにはちょっともったいない。そういうことですね。
読書エフスキー3世
読書エフスキー3世
面白くないと思っていた小説が最後の最後でなにこれ面白〜!に変わったら、それはそれで素敵な作品に出会える機会を増やせるわけですからね。今回はいい勉強になりました。
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書生
ふむふむ。『幻影の書』かぁ。そう考えるとこのタイトルも言いえて妙な気がしてきますね!The Book of Illusions!カッコ良すぎ!

批評を終えて

読書エフスキー
読書エフスキー
以上!白痴モードニ移行シマス!コード「ネートチカ・ステパンチコヴォ・マレイ!」
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「The Book of Illusions!カッコ良すぎ!」…って、あれ?僕は一体何を…。
職場の同僚
職場の同僚
何をじゃないよ!仕事中に居眠りこいて!
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え?あれれ?読書エフスキー先生は?
上司
上司
誰だそれ。おいおい。寝ぼけ過ぎだぞ。罰として一人でここの案内やってもらうからな!
無料読書案内の書生
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えーっ!?一人で!?で、出来ないですよ〜!!
上司
上司
寝てしまったお前の罪を呪いなさい。それじゃよろしく!おつかれ〜
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ちょっ、ちょっと待って〜!!…あぁ。行ってしまった。どうしよう。どうかお客さんが来ませんように…。
お客さん
お客さん
…あのすいません、幻影の書について聞きたいんですが。
無料読書案内の書生
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(さ、早速お客さんだーっ!!ん?でも待てよ…)いらっしゃいませー!ポール・オースターの作品でございますね。おまかせくださいませ!
ブックレビューテープ
 あとがき


いつもより少しだけ自信を持って『幻影の書』の読書案内をしている書生。彼のポケットには「読書エフスキーより」と書かれたカセットテープが入っていたのでした。果たして文豪型レビューロボ読書エフスキー3世は本当にいたのか。そもそも未来のロボが、なぜカセットテープというレトロなものを…。
読書エフスキー
読書エフスキー
ウィンク。パチンパチン。
幻影の書レビューお終い

名言や気に入った表現の引用

幻影の書の名言
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書生
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『幻影の書』の言葉たちです。善悪は別として。

人はみな、不可能なことを信じたがる。奇跡は起こりうる、みんなそう思いたいのだろう。

p.10

喜劇映画について書くというのは、ひとつの口実でしかなかった。一年以上にわたって、自分のなかの痛みが万一鈍ってくれればと思って毎日飲みつづけた奇抜な薬にすぎなかった。

p.11

幸い彼らの訪問はそれほど多くなく、悲しみを共に分かちあう、というあの苦痛でしかない儀式にはそれほどかかわらずに済んだ。もちろん彼らに悪気はなかった。友人が誰か訪ねてくるたび、むろん中には入ってもらったが、涙ながらの抱擁と長く気まずい沈黙は何の足しにもならなかった。独りにしておいてもらうのが一番だった。自分の頭の闇のなかで日々を耐え抜くのが最善だった。

p.13

私のうちに笑う力があるのなら、まだすっかり麻痺しきってはいないということだ。私はまだ、もはや何ものも入ってこれぬほどすっかり自分を閉ざしてしまってはいないのだ。

p.16

映画ではあまりに多くが与えられてしまい、見る側が想像力を働かせる余地が少なすぎる気がした。映画が現実を模倣すればするほど、逆に世界を表現することから遠ざかってしまうように思えた。結局のところ世界とは、我々の周りにあるのと同程度に、我々のなかにもあるのだ。だから私はかねてから、カラーより白黒の映画、トーキーよりサイレントの方が好みだった。映画とは視覚の言語であり、二次元のスクリーンに画像を投影することによって物語を語るメディアである。音と色が加わったことで、三次元の幻想が生じはしたが、同時に画像から純粋性が失われた。もはや画像がすべての仕事をやる必要はなくなり、その結果完璧な混合メディア、最良の空想世界が生まれるかと思いきや、音と色によって高められるはずだった言語がむしろ弱められてしまったのだ。

p.22

予期せぬことを予期せよ、と人は言うが、一度予期せぬことが起きてしまえば、人間、それがもう一度起きるとは予期しないものだ。

P.128

冷蔵庫を開けるたびに、今夜自分に何が起きたかを私は思い出すだろう。それは私一人の秘密の記念碑、死との一瞬の遭遇を記録する形見となるだろう。

p.149

何もかもがものすごく速くなる。改まった紹介とか、握手とか、お酒を飲みながらの慎み深い会話とか、私たちそんなことやってる暇はなかった。狂暴にやるしかなかったのよ。宇宙の果てで衝突する二つの惑星みたいに。

p.161

疚しい思いは時に、人を本意に反する行為に向かわせるが、欲望についても同じである。そして、一人の男の心のうちで疚しさと欲望とが久しく混じりあうとき、その男は奇怪な行動に走りがちなものである。

p.176

俺の人生を救おうと思うなら、まず破滅の一歩手前まで行くしかない。

p.203

人生とは熱病の生む夢だとヘクターは思い知った。現実とはもろもろの虚構と幻覚から成る無根拠な世界であり、想像したことがすべて実現する場なのだ。

pp.213-214

今度こそ絶対嘘だと思っても、調べてみるとやっぱり事実なのよ。だからこそこれはありえない物語なのよ、デイヴィッド。何もかも真実だからこそ。

p.288

好むと好まざるとにかかわらず、私には自分が見たもの、聞いたもののことしか書けない。見なかったもの聞かなかったもののことは書けない。これは失敗を認めているのではなく、わが方法論を、根本原則を述べているにすぎない。私が月を見なかったのなら、月はそこになかったのだ。

pp.290-291

何かを捨てて逃げることの意味が君にはわかっている。そういうふうに考えられる人間を私は尊敬する。

p.296

人は追いつめられて初めて本当に生きはじめる。

pp.314-315

私はこれ以上問いつめる代わりに目を閉じて跳ぶことにしたのだ。落ちた先に何が待っているかはわからない。が、わからないからといって危険を冒す価値がないことにはならない。だから私は落ちつづけた……

p.347

我々の身に起きることは、何ひとつ失われはしないのだ。

p.360

この世には、精神を崩壊させてしまう思いというものが存在する。あまりに力強く、あまりに見にくいために、それを考えたとたんに人を損なってしまうような思いがあるのだ。私は自分が知っていることに怯えていた。自分が知っていることのおぞましさに落ちていくのが怖かった。

p.419

読書エフスキー3世
読書エフスキー
引用:『幻影の書』ポール・オースター著, 柴田元幸翻訳(新潮社)

幻影の書を読みながら浮かんだ作品

The Inner Life of Martin Frost
3.2

ジャンル:コメディ映画, ヒューマンドラマ映画, ファンタジー映画
監督:ポール・オースター
主演:デヴィッド・シューリス, イレーヌ・ジャコブ

読書エフスキー3世
読書エフスキー
映画『The Inner Life of Martin Frost』ですか。
無料読書案内の書生
書生
幻影の書の中に出てくるヘクター・マンが作った映画として『マーティン・フロストの内なる生』というのが出てくるのですが、実際にポール・オースターが監督として映画化しています。小説の映画描写の中でひときわ印象的だった作品なので映像化されているのは嬉しい所ですが、日本では上映されておらず日本語字幕もない輸入盤しか手に入らないのがちょっと残念。

レビューまとめ

幻影の書まとめ

ども。読書エフスキー3世の中の人、野口明人です。

なんかかゆいなと思ってかいているのに、全くかゆいところがわからずにひたすら腕が痛くなるまで掻き続けているような小説。そんな感想を僕は『幻影の書』を読み終えた後にメモに書きました。

今それを読んでみると、ん?って感じではあるのですが、改めて考えてみれば、その赤みが引いた頃にその場所を見てみると、あー、ここが痒かったのか!なるほどなぁ〜!と最後にわかるような小説でした。

今回のレビューは抽象的な感想ばかりで申し訳ないんですが、とにかくこの小説を読んでいる時は、何かが起きそうなのに何も起きないことにイライラし、ひたすら進展せずに情景描写が続くことに辟易しつつあったのです。

でも作品は最後まで読まなければ、その良さはわからないもんですね。本当にこのラストは良い。読後感でいえば、ムーン・パレスよりも幻影の書の方が好きなのです。

ムーン・パレスと幻影の書、二つの作品読んでみて僕は決めました。この作家を発表年順に読んでいこうと。いやー、本当にポール・オースターいいなぁ〜。文章の言葉使いが絶妙なんだよなぁ。

ほほう。絶望をそう捉えますか!そういう言い方で絶望を表現しますか!!と、ひとつのセンテンスを読むだけでも充分楽しめてしまう。レビューの中では絶望のまま進んでいくと書きましたが、こういう絶望からの脱出もあるのではないのでしょうか。

それにしても現代作家の海外物って、有名なものだけでその他の作品は意外と翻訳されていなかったりするのですが、ポール・オースターはありがたいことに沢山翻訳作品が出版されている。なのでこれからどんどん読んでいこうと思います。

ではでは、そんな感じで、『幻影の書』でした。

あ、こういう小説に出てくる本や映画ってなぜか非常に魅力的に思えちゃうんですよね。ナサニエル・ホーソーンの『あざ』という作品、いつか読んでみたいなぁ。

ここまでページを閉じずに読んで頂いて本当にありがとうございます

最後にこの本の点数は…

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幻影の書 - 感想・書評

幻影の書
4.4

著者:ポール・オースター
翻訳:柴田元幸
出版:新潮社
ページ数:429

幻影の書¥ 766
  • 読みやすさ - 78%
    78%
  • 為になる - 71%
    71%
  • 何度も読みたい - 88%
    88%
  • 面白さ - 89%
    89%
  • 心揺さぶる - 85%
    85%
82%

読書感想文

ムーン・パレスとは違った形で人間の絶望を扱った作品。ちょっと独特な形をしているので、読みやすさの点では人を選ぶと思います。こういう本をスラスラっと読めるような人になりたいなぁ。ポール・オースターを調べると村上春樹の名前がチラホラ浮かんで来ますが、確かにこの本は村上春樹っぽさが垣間見えました。ノルウェーの森とか好きな人におすすめ。とりあえずラストが素晴らしい!!最後まで読もう、絶対。

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幻影の書_ポール・オースター
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